ところ変わって、モーリンの道場。
相変わらず話し合いは続いているようだった。
ようだった、が。
集った人間すべてが、目を点にしてトリスとマグナを凝視しているのは、いったいどういうことだろう。
「……トリス……マグナ……」
膝の上においたこぶしをかすかに震わせながら、同じように震える声でそう云ったのは、ネスティだった。
「……今、なんと云った?」
たった今耳にした、トリスとマグナの発案を、脳が理解するのを否定したがっているのが丸判りである。
だが、それは、目の前の妹弟子と弟弟子には判ってもらえなかったようだ。
ふたりはあっけらかんと視線を見交わし、同じくあっけらかんと、一同を硬直に追い込んだセリフを繰り返した。
「だからさ、デグレアの内情を知れば今後の戦いにだって役立つと思うんだけど」
「で、それをあたしたちで調べに行かないかって云ったんだけど」
何か、問題ある?
ふたり揃って同じ方向に同じ角度で首を傾げる様は、誠に微笑ましい。
……が。
その発言事態が、あまりに突拍子もなさすぎるのがまずかった。
案の定、ようやくことばの意味を理解したらしいネスティが、小刻みに身体を震わせだす。
「き……」
「き?」
「君たちはバカか!?」
そんな思いつきみたいなことが、出来るはずないだろう!!
ほとんど条件反射で肩をすくめたふたりに、ネスティは、さらに追撃をかけようとする。
だが、つい、と、手を伸ばしたシオンが、それを制していた。
「……あながち、不可能と決めつけることは出来ないのではないですか?」
「シオンさん? それはいったい……?」
カイナが小さく首を傾げて、同郷の出身である青年に問う。
伸ばしていた腕を戻し、そのまま手のひらを軽く握って顎に押し当てて、シオンはそれに答えるべく口を開いた。
「デグレアが、聖王国への侵攻を最優先しているというのならば、自国に向ける目は、その分弱くなっているでしょう」
容易とは云いませんが、忍び込むことは困難ではないと思いますよ。
「……今までさ、俺たち、デグレアに対して受身の行動しかとってなかっただろ?」
シオンのことばに勢いを得たのか、マグナも、ずい、と身を乗り出した。
一緒になって前かがみになりながら、トリスもうんうん頷いている。
「でも、これからはそれだけじゃダメだと思うの。もっと、こっちからも打って出なきゃ」
あたしたちの最大の武器って、きっと、何にも束縛されてないってことだから。
「……まァ、ニンゲンにしちゃあいい案じゃねぇの?」
「ご主人様かっこいいです! がんばりましょう!」
「ハサハも……そう思う……」
「主殿ノ案ニ、私ハ異存アリマセン」
それまで、黙って会話を聞いていた護衛獣たちが、まるで機を見計ったかのように、そろって同意を示した。
「……たしかに……一理あるな」
「ちょっとフォルテ、あんた――」
うむ、と、頷いたフォルテを見て、ケイナは何か云いかけたけれど。向かい合う相棒の表情を見、「……しょうがないわねえ」と。それだけつぶやいて、口を閉じた。
「ですが、ファナンの守りはどうなるんですか?」
ロッカが懸念も強く問うたけれど、くるりと振り返ったマグナの目に、ことばを飲み込む。
紫色の双眸に、これまでにない強い光が宿っていた。
「俺たちがいなくたって、そう簡単にファナンは負けないよ。な、ミニス」
「う……うん! そうよねっ! お母様だっているんだし!」
「そうだよ! ミニスのお母さん、とっても強いもん!」
「――ま、実際、軍隊と軍隊の戦いになったら、俺たちは邪魔なだけだろうしな」
「それよりは、今やれる最善と思うことに力を尽くす方がよいかもしれんな」
戸惑いが、少しずつ、変わる。
士気が高まる。
……トリスとマグナの力だ。これは。
まだまだ、発展途上なのかもしれないけれど、それは確実に自分たちを動かしている。
懸命な姿に、みんながつき動かされる。
何故だろう。ここにきてようやく、この場の各々の道が、より近くに寄り添ったような。けして一本にはならないけれど、それに近い形に束ねられたような、そんな気さえ、した。
黙ってそれらを見ていたを、マグナとトリスが振り返る。
「」
呼ばれる名前。
向けられる視線。
微笑む、その双眸が告げる。
まるで、今しがた考えたことを、見透かされたようだった。
その自分たちを動かしてくれたのは。紫色の眼差しが云った。
闇に沈み込むしかなかった自分たちを、また、歩き出すことが出来るようにしてくれたきっかけは。
。
君なんだ、と。
……それこそそんな、とんでもない、と、口に出して否定しようと思っただったが、ふたりの表情が、とても生き生きとしていたせいで、気を削がれてしまう。
だから、代わりに口をついて出たのは、
「――うん。行こう」
答え、応える、その意志の表明。
行こう。デグレアに。
元老院議会の真意を知るために。
――ひそやかに屍の街となろうとしている、もうひとつの故郷へと。
不思議ですね、と、シオンがそう云ったのは、解散後、が彼とともに蕎麦の下ごしらえをしているときだった。
ちなみに、時給交渉は先んじて完了済みである。
「何がでござるか?」
台所の砥石を借りて、刀の手入れをしていたカザミネが、ふと顔をあげる。
明日の朝食の下準備をしていたカイナも、シオンに視線を向けていた。
そのシオンは、両腕に蕎麦粉をまといつかせたまま、小さく微笑んで。
「……さんは、一年前の話をご存知ですか?」
サイジェントで起こった、忌まわしくも哀しい、けれど壮大な話を。
「あ、はい」
すべてを聞いたわけではないが、大方の話なら聞いていた。
なんといって、その事件に関ったのは、ついこの間再会した自分の幼馴染みだったのだから。
「私たちがその手助けをしたことも――」
「はい、聞いてます」
シオンさんもカイナさんもカザミネさんも、一緒に戦っていたんですよね?
「ええ、そうです」
答えたのはカイナ。
「その後は、ご存知のとおり、それぞれの道をと動いていたのですけれど……」
「ええ。それがまた、マグナさんやトリスさんをきっかけに、同じ目的を目指すことになったのですから」
「……ふむ。まこと、縁とは異なものでござるな」
「彼らと同じように、ひたむきな姿が、知らず知らずに私たちを突き動かしてしまうのでしょうね」
ああ、不思議というのはそういうことだったのか、と。
シオンと同じように蕎麦粉にまみれながら、は妙なところに感心してしまった。
それから、まるで自分のことみたいに嬉しくなる。
三人の――特にシオンのことばは、トリスやマグナを誉めてくれてるものだったから。
友達を手放しで誉めてもらうのは、やっぱり嬉しいことだ。
そんな感じで和んでいたら、
「でも、さんも功労者なんですよ」
「へ?」
持ち上げていた器を取り落としかけ、あわてて支えて疑問符出現。
カイナはにこにこ笑いながら、が体勢を立て直すのを手伝ってくれた。姿勢のせいだろうか、つい、あらぬところに視線が動いた。
……う、間近で見るとほんとうにふくよかな胸……
うらやましい。
って違うっちゅーの。
至極どうでもいい思考を振り払う横から、
「そうでござるな」とカザミネが云った。「お主がおらぬ間の彼らは、云い様のない有様でござった」
「か……カザミネさんまで」
なんだなんだ誉め殺しなのか何も出ないぞと思ってみても、シルターン組の彼らの目は、とても、をからかっているようには思えない。
「私もそう思います」
「大将〜〜〜〜」
「……さん」
とうとう苦笑いするしかなくなったに、シオンがつと上体をかがめ、視線を合わせる。
「これからも、貴女の信じる道を歩いてください。きっと、それが、力になるでしょう」
自分の心にある本当の気持ちを見つけて、それに嘘をつかなければ、何も恐れることはないのですから。
かつて、異世界からの来訪者でありながら、この世界とえにしを結び、エルゴたちの王となった彼らと同じように。
頬を染めて、しどろもどろに照れるを見ながら、ふとシオンは考える。
思い出す、と云ったほうが正確なのかもしれなかった。
引き合いに出した一年前の事件より、もっとずっと、以前の時間。
かつて己の故郷において、この身を捧げるべく仕えていた主の姿。それが、に一瞬重なったのだ。
年齢も、経験も、主に比べれば遥かに足りない、それでも。――この少女の何が、シオンをしてそうさせるのか。
けれど。
いつだったろう、かの主が珍しくも己の道に迷ったときに、シオンは、先刻と同じことばを告げたことがあったのだ。
ただ、それだけの共通点。されど――
「あ、見つけた!」
台所の入り口から声がかかり、一同はぱっと視線をそちらに向ける。
立っていたのは、ルウ。と、それからアメルにトリス。
「どしたの?」
「うん、出発は三日後でしょ。明日は暇かなって思って」
「えーと……?」
くるりとシオンを振り返り、
「バイト入ってましたっけ?」
「いえ、明日から定休日ですよ」
明日【から】ってあたりが、そこはかとなく事情を漂わせている。
が、とりあえず、お役御免ではあるようだ。
パッフェルのところのケーキ配達は、今日の昼間に加勢してきたし。
……結論。
おそらく暇。
トリスたちに向き直ってその旨を告げると、3人は満足そうに頷いた。
「じゃあ、一緒にケーキ食べに行かない?」
「……ケ……ケーキ?」
くどいよーだが、は、ケーキ配達を今日の昼間に手伝ってきた。
そりゃあ配達先からしてみれば、1個や2個や5個くらいだ。だけどそれを数戸分、まとめてバスケットに入れてみたその光景は、胸焼けで昇天しそうなほどに甘ったるい。
ちょっと退いたには気づかず、アメルが楽しそうにルウを示して、
「ルウさんが、ケーキを食べたことないっていうから、明日食べに行こうと思うんですけど……」
ご一緒にどうですか?
……どーでしょうか。
誘ってくれるのは嬉しいし、ケーキも、甘味が強すぎないのなら、それなりに好きだ。
けど、今日、山のよーなケーキとご対面してしまったの本音がそこに混じり、結果、返事に迷ってしまったのである。
が、そこに助け舟。
「あ、さんここにいたんですか」
やっぱりを探していたらしく、そんなコトを云いながらひょっこり顔を覗かせたのはロッカだった。
相変わらず、頭のてっぺんでぴこぴこ揺れてる触角(青)がちゃーみんぐ。
あれ、と云いながら、アメルがロッカを振り返った。
「ロッカもに用事?」
「ああ。しばらくファナンでゆっくりしていただろ、また旅に出るから、その前に腕慣らしの相手になってもらおうと思って」
デグレアまでなら、それなりに日数もかかるだろうし、はぐれや野党に遭う可能性も高いからね。
「そうなんだ」理はある、とルウがうなずいた。「、どうする? ルウたちなら、また今度でもいいけど」
「えっと……」
考える振りなんてしつつも、実は、答えは決まってた。
ごめんケーキ、いや、みんな。あたしは今回、甘味よりバトルを選びます。
「じゃあそうする。あたしも、ちょっとのんびりしすぎたかも」
ある意味放心期間だった気もするが。
たぶんと同じようなコトを一同も考えたんじゃないかと思ったが、誰も、声に出しては何も云わなかった。
の返事に、ロッカが表情をほころばせて頷いた。
「じゃあ、明日の朝食後にでも……」
「うん。……あ、他に誰かくるの?」
なんか、のんびりしてたって云うなら、みんなみたいな気がするんだけど。
「ああ、でしたら、私もご一緒して構いませんか?」
「え、大将も!?」
「……ご迷惑ですかね?」
「いえいえいえっ、そんなことないです! ないけど、大将の相手になれそうなのって……」
何せシオンは、シルターンの鬼神つきシノビ複数をたった一人で撃退してのけた腕の持ち主である。
自分とロッカが束になってかかって、も無理なんじゃなかーか。
そんなことを思ったの返答に、けれど、シオンはにこりと微笑んだ。
「ご謙遜を……さんもロッカさんも、充分に腕を上げておられます」
ていうか、その分大将も腕を上げてる気がするんですけど。
蕎麦屋と偵察と兼業していて、いったいいつ特訓する暇があるのか知らないけれど。
「それなら、兄さんたちも誘ったらどうかな」
「マグナたち?」
ひょこっと頭を覗かせて、人差し指を立てながら、トリスがそう提案した。
聞き返したに、今度はアメルが頷いてみせる。
「ええ。フォルテさんやシャムロックさんと、剣の稽古をするそうなんです」
「あ、そうなんだ……ロッカどうする?」
「僕は構いませんよ」
……ちょっと残念ですけど。
言外のロッカのつぶやきは、には届かなかったけれど、代わりとばかり、その他数人に届いたようだ。
から視線を転じたトリスが、にぱ、と、実に見た目邪気のない笑顔を浮かべる。
はマグナ兄さんかネスにお嫁に貰ってもらうんだから、そうふたりっきりにさせてたまるもんですか。
私は、と一緒にいれるならロッカでもリューグでもいいんですけど……トリスを怒らせるのも嫌ですし。
調律者と聖女の心の声も、やっぱりには届いていない。
苦笑いするロッカを不思議そうに見つつも、「それでは時間を決めましょうか」というシオンのことばで、さっさと話を切り上げていたからである。
で、それを見ていたルウが、呆れたように笑っていたことも、やっぱり彼女だけが知らない。
とりあえず話もひと段落ついたところで、アメルがにこやかに笑って告げた。
「特訓頑張ってくださいね。、ロッカ、シオンさん」
大勢でやればきっと楽しいかもしれませんよ。そう付け加えられたことばに、三人は顔を見合わせた。
いやアメルさん、訓練を楽しくやっちゃあんまり訓練にならないんですけど。
というの声にならないツッコミは――先の例に同じく、聖女には届かなかったようである。
そんなこんなで翌日の予定が決定した後のことだ。
「元老院議会には、あまり良い思い出はないな」
それはおまえさんもではないか?
寝酒を届けに行ったついでに、アグラバインが現役の頃のデグレアの話に、それとなく水を向けてみたら、あっという間に意図を察してくれたらしい。速攻で、そんな答えと問いが返ってきた。
「……だがよ、デグレアの奴らはそれに納得してるんだろ?」
横から口を出してきたのは、部屋にいたリューグ。
ロッカと一緒に部屋を訪れた――というかロッカは戻ってきたと云うべきなのだが――ときには、少し不機嫌そうに兄を見ていたが、
「それもそうか……本当に不満なら反抗するはずだし」
弟の不機嫌など知ったことかと云わんばかりのすまし顔で同意してみせるロッカのことばに、は困って首を傾げた。
過去の自分が、実際そうだった。
拾ってくれた恩義を、ルヴァイドを通じて国自体へ感じていたというのもあったのだけれど、そう云われると、あまり疑問もなく彼らの施政に従っていた気がする。
いやいや。つーか十何歳の娘にそこまで疑問を抱けって方が難しいよーな。
の表情を見て、アグラバインが苦笑をもらした。
「おまえさんの反応が、おそらくデグレアの民の正直な感想だろうよ」
おまえさん、と呼ばれたと同時に、ロッカとリューグもまた首を傾げる。
「どういうことだ?」
「つまり、あの街は大絶壁と険しい山々に囲まれておるおかげで、外部から訪れる者が殆どおらんのだ」
いわゆる鎖国状態って奴です、と、がもう少しあちらの世界で勉強していたら出てきたかもしれないが、生憎それは出来ない相談である。
「……だから、古くからのしきたりの問題点を指摘する者もいない。故に、民衆は疑問さえ抱かなくなっている、というわけだ」
「あれ、ネスティ」
「通りかかったら話が聞こえたんだ。悪いとは思ったんだが、元々こちらに向かっていたから」
別にいいのに、とが笑う間に、ネスティもすたすたとこちらに歩いてきた。
やってきた方向と手に持っている書物から考えて、今まで弟弟子と妹弟子の、日中の課題の成果を見ていたんだろう。
全然怒鳴り声とかしなかったってことは、今日のふたりは優等生だったんだろか。
「いや、全然」
「……あっそ」
問えば、すっぱり切り捨てるお返事。
その割には、なんとなくご機嫌なんですがネスティさん。
「今さらという気もするが、ようやく真剣に取り組み始めたようだからな。兄弟子として、少し安心させてもらったんだ」
もっともその分、教えなおす部分もあって梃子摺らされたのも事実だが。とか云いながらやっぱりご機嫌そうなのは、彼らの学習態度に改善が見られたおかげなんだろうか。
っていうか、
「……本当に、『今さら』だな」
今まであいつら、何してやがった……
遠い目をしてリューグがつぶやくが、まあ今からでもいいじゃないか、これで戦いが楽になるなら、とロッカがたしなめる。
「……ともあれ、これで少しは、安心して見ていられるようになったと思いたいものだ」
「てか、ネスティが心配性すぎるような気もするんだけど」
「なっ……」
胸に覚えがあるのか、引きつった顔でネスティが後ずさる。
が、すぐに真顔になって、
「仕方ないだろう。今までの彼らを見てみろ、あれで安心できたと思うか?」
「……」
沈黙。
答えられず。
思わない、と云えばネスティの思惑どおりになるし、思う、と云ったら嘘になりそうだ。酷だが事実。
助けを求めて双子に目を移せば、実に微妙な首の傾げ方を披露してくれた。助ける気なしってことですか。
そのやりとりがおかしかったのか、アグラバインが喉を震わせて笑う。
「いや……それもあるかもしれん。が、むしろ、おまえさんの神経が据わったせいもあると思うがな?」
「……そうでしょうか」
いつかのように、険の交じった声を、ネスティがアグラバインにかけることはなくなった。
戸惑いを思いっきり前面に出したままの彼に、ここぞとばかり、も頷いてみせる。
「そうそうそう、今まであんな大騒動だったし、これからもきっと大騒動――だし。神経も図太くなるってもんよ! ね!」
「そんな嬉しそうに云われても……」
ははは、と、乾いた笑いを立てるロッカ。
あきれ返ってしまったのか、もはや無反応のリューグ。
そうしてネスティは、しょうがないな、と云いたげに小さく笑ってみせて。
「……なら、そういうことにしておくか」
とだけ、答えたのだった。
が、はた、と、そこでの脳裏に引っかかるコトがひとつ。
「……もうひとつ今さらなんだけどさ」、
切り出せば、問いかけたネスティをはじめ、レルム村の双子とかつての獅子将軍も彼女を見た。
「あのふたりって、今まで勉強不真面目だったの?」
「? ああ、そうだが」
「でも、ふたりとも、まともに召喚術使えてたよね?」
「……ああ」
「しかも、威力って結構凄くなかった?」
「だな」
「ですね」
「……じゃあ、さ……?」
ぴ、と、人差し指を立てたを見て、一同、そのことばの続きに思い至ったらしい。
問われる側であるネスティ、傍観を決めたアグラバインを除いた三人のことばは、ものの見事に重なった。
『本格的に勉強したら、ふたりともどれだけ強くなる(んだ)(んですか)(の)?』
そう質問したときのネスティの表情こそが――見物だった。
口をそろえて問われたことに、最初、きょとんとしていたけれど。次第に口元がほころんで、ゆっくりと、それが笑みを形づくる。
弟弟子と妹弟子への信頼を、見せ付けてくれるような。あたたかくって優しい、笑顔。
「……まあ、楽しみにしていてくれ」
声に出しては、それだけの返答だったけど。
もリューグもロッカもただ、黙って笑み、うなずいた。