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第42夜 弐
lll 夢から覚めて lll




  夢だと思うには難しく、現実だと認めるには容易ではない。
「……なんなのさ……?」
 窓の外は、まだ夜明け前の空模様。
 今にも山の端から出ようとしている太陽の光が、ところどころを照らすばかり。
 つまり。
 朝方に一度目を覚まし、再び24時間近く睡眠していたと。
 そういうことですか?
 睡眠大将の座を狙えるんじゃなかろーか。あるかどうか知らないけど。

 ああ、だけど。

 仰向けのまま、大きく胸を上下させた。
 開けられた窓から入り込んでいた、新鮮な、朝の空気がより強く、肺腑に入り込む。

 やけに、すっきりした気分だった。

 黒の旅団と戦うことを考えると、気が重くなるのは変わらない。
 だけど、どうしてだろう。
 目が覚めると同時に、あやふやになりだした夢のなか、最後に告げられた一言が、潰されてなるかと奮起させてくれている。

 誰の声だった? 誰のことばだった?
 判らなくて、それでも、はっきりしている、ただそれだけは。

 愛しているのでしょう?

 そんな高尚な感情のつもりはないけれど、ああ、そうか。

 あたしは、みんなが好きだ。
 こちら側の人たちも、あちら側の人たちも。
 記憶がなくなっても立つ場所が変わっても、それだけは、ずっと変わらなかった事実。

「……大好きです」

 その大好きな人たちが、あたしを戦うべき相手としている。
 だけど、感情でそうなったんじゃない。憎み合ってはいない。けっして。
 ただお互いの状況が、その道を歩むべしと向かっただけ。

 そうだ。憎んでいない。憎まれてはいない。

 好きです。
 大好きです。

 友なら。仲間なら。
 敵でも。戦う相手でも。
 これから先、あたしたちの立つ場所が、どんなにその姿を変えていくとしても。

 きっと、この気持ちは変わらない。

 違えることはない。これだけはずっと。



  ――頬を一筋、雫が濡らした。まるで夢の残滓のように。


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