夢だと思うには難しく、現実だと認めるには容易ではない。
「……なんなのさ……?」
窓の外は、まだ夜明け前の空模様。
今にも山の端から出ようとしている太陽の光が、ところどころを照らすばかり。
つまり。
朝方に一度目を覚まし、再び24時間近く睡眠していたと。
そういうことですか?
睡眠大将の座を狙えるんじゃなかろーか。あるかどうか知らないけど。
ああ、だけど。
仰向けのまま、大きく胸を上下させた。
開けられた窓から入り込んでいた、新鮮な、朝の空気がより強く、肺腑に入り込む。
やけに、すっきりした気分だった。
黒の旅団と戦うことを考えると、気が重くなるのは変わらない。
だけど、どうしてだろう。
目が覚めると同時に、あやふやになりだした夢のなか、最後に告げられた一言が、潰されてなるかと奮起させてくれている。
誰の声だった? 誰のことばだった?
判らなくて、それでも、はっきりしている、ただそれだけは。
愛しているのでしょう?
そんな高尚な感情のつもりはないけれど、ああ、そうか。
あたしは、みんなが好きだ。
こちら側の人たちも、あちら側の人たちも。
記憶がなくなっても立つ場所が変わっても、それだけは、ずっと変わらなかった事実。
「……大好きです」
その大好きな人たちが、あたしを戦うべき相手としている。
だけど、感情でそうなったんじゃない。憎み合ってはいない。けっして。
ただお互いの状況が、その道を歩むべしと向かっただけ。
そうだ。憎んでいない。憎まれてはいない。
好きです。
大好きです。
友なら。仲間なら。
敵でも。戦う相手でも。
これから先、あたしたちの立つ場所が、どんなにその姿を変えていくとしても。
きっと、この気持ちは変わらない。
違えることはない。これだけはずっと。
――頬を一筋、雫が濡らした。まるで夢の残滓のように。