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第34夜 壱
lll かっとび計画立案 lll




 そして屋敷に響き渡るは、素っ頓狂な一同の声。

「――ええ!?」
「遺跡自体を封印するー!?」

 の問題も解決して、さあこれからの話し合いだ――となりかけたとき。
 ミモザが頬杖ついて、楽しそうに、サイジェント組を見ながら云ったのだ。
「この子たちがいれば、不可能じゃないと思うわよ」
 なにせ誓約者と護界召喚師よ? 常識外れの能力者たちよ?
「っていうかぶっちゃけ君たちなら、禁忌の森の遺跡だって、一発で破壊できちゃうんじゃないの?」
「……うわ。」
 それまでの苦労が一瞬で消え去る解決方法まで提示され、マグナとトリスとネスティとアメルが、そろって遠い目になった。
 たしかに、ここにいるのは伝説の誓約者。プラス、それに勝るとも劣らない力を持つらしい護界召喚師。
 彼らが揃えば正に最強、向かうところ敵なしって感じに違いない。けど。
 頭に手をやって、ソルが渋い顔になる。
「断っておくが、実物を見ないことには、なんとも云えないぜ……召喚兵器とやらがうろついてるんだろう?」
「でも、破壊するだけですむんだから楽なもんじゃないか。力押しが効くしさ」
 ハヤトのセリフに、今度は、禁忌の森へ向かった全員が遠い目になった。

 だって。
 あのとき散々苦労した召喚兵器を『破壊すれば済むから楽』だなんて云われた日には。もう。もうもうもうもう。牛になるくらい。もう!
 その『破壊』するのに、どれだけこっちが苦労したと思ってるのか現代に再臨した伝説さんたちは……ッ!!

 とか、数名が握りこぶしってるのをよそに、
「わたしは構いませんよ? ちゃんとももう少し一緒にいたいですし」
 せっかく、6年ぶりに逢えたんですものね。
 そう、真っ先に同意したのはアヤだった。
 幼馴染みとしての気持ちもあるかもしれないけれど、たぶん、次に出たナツミのことばも含んでいたのではないだろうか。
「そうだねー……誓約者ってのはさておいても、そーいう危ないもんはほっとけないよ」
「まあ、一理あるな」
 トウヤが頷き、そうして、その他の一同も同意を示して。

「じゃあ行きますか?」
「だな」

「え?」

 すっくと立ち上がり、すたすたすた、と玄関に歩いていこうとする8人を見て、何人かが素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと待って!? あたしたちも――」
「あ? いいからいいから」
 行く、とトリスが云い終わるより前に、ハヤトがぱたぱた手を振って笑った。
「俺たちだけで大丈夫だよ」

 うわすげぇ自信。

 呆気にとられた一同に、じゃあそういうことで、と、キールが云ったけれど、
「で、でも!」
 今度はマグナが立ち上がった。
「これは、クレスメントの。ネスの、アメルの……ええととにかく、俺たちにも関係があることだし――!」
 慌てて云う彼のことばは、さすがに無視できなかったらしい。
 とりあえずだけど、は彼らに事情を話しているし、ここにきてからも幾らかは聞いているんだろうから。
 調律者と融機人、そして豊饒の天使にまつわる因縁を、彼らも知っている。
 知っているから、人任せにはできないというマグナたちの気持ちもたぶん察している。
「……」
 足を止めた8人は顔を見合わせて、しばらく何事か考える素振りをした。

 そして、
「じゃあ、ちゃんは当然として」
「えっと、マグナとトリスだっけ?」
「あと、ネスティとアメル」
「護衛獣の子たちも」

 一緒に来る?

 ちゃくちゃくっ、と決定したのち、トドメのように彼らは云った。
「たぶん暇だと思うけど」

 自信ありすぎですあんたら。

 と心中つぶやきながらも頷いた4人+護衛獣ズを、他の仲間は複雑な顔で見た。
 名指しされた彼ら以外は、ついてくるなと云っているよーなもんだから、それも当然か。
「みんなにはみんなで、やってもらわないといけないことがあるわよ?」
 その仲間たちに向かって、ミモザが云った。
 横から補足するようにギブソンが、
「君たちがここに戻ってきたのは、そもそも何のためだった?」
 そのことばに、一同、顔を見合わせて――

「ファナン!!」

 ミニスとモーリンが叫んだ。
 そうだった。
 王都まで舞い戻ってきたのは、金の派閥の議長であるファミィ・マーンの親書を届けるため。トライドラの報告のため。
 親書を届けたのは、デグレアの侵攻がファナンへ及ぶだろう予測のもと、蒼の派閥と王都の協力をとりつけるため。
 禁忌の森への往復と、の帰還のごたごたでかなり間が空いてしまっていたことに遅まきながら気づく。
 いや、あんな衝撃的なことがあったんだから、記憶の優先度が変動してもしょうがないような気はするけれど。
「豊漁祭の盛り上がりもそろそろおさまる頃だね」
 日付を確認してモーリンが云うと、これもある意味地元の強みでミニスが頷く。
 それはすなわち、ファナンも戦争の準備を整えだしたかもしれない、ということだ。
「そうだな、俺様たちはファナンの加勢に向かうか」
「少人数にだって利点はある、ひっかきまわすくらい出来るだろうぜ」
 レナードとフォルテがそう云い、シャムロックが頷いた。
「ならば決まりですね」
「拙者たちはファナンへ戻る、ということでござるな」
「そっちはそっちでちゃんと決着つけてこいよ。でないと承知しねえぞ」
 リューグが云い、
「勿論! ファナンを頼む、皆」
 マグナが応じる。
「無事に戻ってこられた暁には、ファナンで皆さんに自慢の蕎麦をご馳走出来るようにしておきますよ」
 にこにこと告げるシオンのことばに喜ぶ人間数名、脱力する人間が数名。
 シノビならシノビらしいコトを云ってほしいもんである。もんである、が。
 とりあえず、シオンの大将らしいことばでは、あるかもしれない。
 余談だが、は両手を上げて大喜びした側だった。


 わいわいと盛り上がっている一行を、微笑ましく見守るサイジェント組。――と、ミモザとギブソン。
「……いい人ばかりですね」
 クラレットが微笑みながらつぶやいて、ミモザが「そうでしょそうでしょ」と、まるで自分のコトを誉められたように、うれしそうな顔になる。
 自慢の後輩だからね、と付け加えるのはギブソンだ。
 なんとなく懐かしくなってしまうのは、遠くサイジェントの仲間たちを思い出してのこと。
「ほんとうに……良かった、ちゃん」
 どうしても幼馴染み主点になってしまうアヤが、ほのぼのと、彼女へ視線を固定したまま微笑んだ。
 6年間、ずっと気にかけていたのだから、無理もない。
「てか、ってあいつらにかなり好かれてないか」
 そう云うハヤトの視線の先には、マグナに抱かれっぱなしだったをリューグがぶんどって、そこにロッカがどつきに入ってシャムロックがを二次被害から守ろうと手を伸ばし――
 つまりアレだ。
 ほとんど、どつき漫才のノリだ。
「気に入らなさそうだな?」
 人の悪い笑顔を浮かべて、トウヤが云った。
 洞察力に優れた彼のこと、ハヤトが不機嫌な理由なんてちゃんと判ってる。
 隣に立っていたカシスがクスクス笑って、
「久しぶりに逢った女の子がすっごく可愛くなって、知らない人たちと仲良くしてるからだよね?」
「そーいうんじゃないけどさー」
 でもなんか、幼馴染みのお兄さんとしては複雑。とハヤト。
 カシスのセリフそのままだろうが、というツッコミを自粛した他一同。
 そして、不意にソルがつぶやいた。心なしか表情が険しい。
「……気になってることがひとつ、あるんだが」
「?」
 が云々、はそこで消え、どうしたんだという疑問符たっぷりの視線がソルに集中する。
「――!」
 その横で、キールが、疑問符を感嘆符に変えた。
 兄の豹変を見たソルは、向けられる視線に軽く頷いて見せる。
 そして、重々しく一同を見渡した。

「……バノッサを野放しにしといていいのか」

 良くない。


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