感じたのは魔力の流れ。そして爆発。
初めは赤ん坊を宥めるような、母親のような力だと思った。
そして次は、すべてが弾け飛ぶような力だと思った。
強大な二種類の魔力が、空間を越えて自分たちの感覚を覆い尽くした。
「ミモザさん、ギブソンさん、お久しぶりです」
「直に顔を合わせるのは久しぶりだね」
「っていうか、無線はどうなってるのよ。ずっとここ宛の送信が不調なのよ?」
「……文句はミモザお姉さんに云ってね」
「あら、私がみんな悪いの? ――ってそういえば、手紙出し損ねたわねぇ……」
「手紙?」
「ああ、うん。貴方たち宛の手紙だったんだけど――」、
「……?」
ふと、一同視線をめぐらせた。うちの数名が見上げた空は青く、うちの数名が感じた風は涼やかに吹き抜けていた。
そんな和やかな光景と会話のなか、
「――――!?」
それは唐突に、自分たちの全感覚を支配していった。
予兆さえ感じさせず、ひそやかに。だけれど強く苛烈に。
「……何が起こったんだ?」
真っ先に衝撃から立ち直ったトウヤが、つぶやいた。
その表情はいつものポーカーフェイスだけれど、微妙に眉がしかめられている。
全員が全員を見渡したけれど、誰も、答えを持ってはいなかった。
ナツミが首をかしげて、
「やっぱり、あの夜の魔力の持ち主なのかな……?」
そうは云っていても、あまり確信は持っていない様子。それは、他の面々も同感だった。
なんというか――微妙に、違うような気がする。
「あの夜?」
聞きとがめたギブソンの問いに、サイジェントからやってきた一行は、いつかの夜に自分たちを騒がせた魔力のコトを話して聞かせた。
ついでに、こちらの人たちは何か感じなかったか、とも訊いてみる。
ギブソンとミモザは顔を見合わせて首を横に振り、エルジンとエスガルドからははっきりした否定が返ってくる始末――だったけど。
「……あ、もしかして」
ふと何かを思い出したらしいミモザが、ぽん、と手を打った。
「ねえギブソン。それってもしかして、あの子たちが夜逃げしたときのアレじゃない?」
「……ああ」
「あの子?」
今度は、サイジェント一行が訊き返す番だった。
夜逃げとか云うから、もしかしたら結構な秘密事項なのかもしれないという予想をあっさり覆し、ミモザは笑いながら「それがねえ」と説明してくれる。
「うちの後輩とその仲間たちが、ちょーっと厄介なコトに巻き込まれててね。それで王都にいちゃ危ないってんで、夜のうちにここを抜け出したのよ」
……笑って話すことではないと思うが。
「そのときに、その後輩がちょっと魔力を暴走させちゃったみたいなのよ。私たちがその場に着いたのはその後だったから、詳しくは聞いてないんだけど」
……余計に、笑って話すことではないと思うが。
けれども、ギブソンとミモザの後輩というなら、一応つてはあるわけだ。直に逢って、その魔力を確かめさせてもらえるかもしれない。
そうしようと思うほどには、あの夜の魔力もいつかの耳鳴りも、サイジェント組にとっては気になっていたコトだったから。
「それで、その後輩というのはどちらに?」
キールが問いかけると、だが、ギブソンもミモザもエルジンもエスガルドも、実に複雑な表情になった。
4人で顔を見合わせて、果たして話してよいものか、目で会話。
「……まあ、今さら君たちに隠し事をしてもね」
そう苦笑交じりに云ったギブソンのことばを皮切りに、事情説明会が開かれようとしたのだけれど。
パサ……
かすかな羽音が、一行の耳を打った。
揃って見上げた先には、鳥。見覚えのある。
「あれ、もしかしてシオンさんの鳥?」
指差して訊いたカシスのことばに、ギブソンが頷く。
腕を伸ばして鳥を停まらせ、その足にくくりつけられたものをほどいて開く。
ギブソンに覆い被さるようにわらわらと一行が覗き込んだ視線の先には、たった数行。
暗号なんて使ってもしょうがないから、普通に文章を書いてくれと頼み込んだ甲斐があって、それはひどく簡潔で、判りやすい文章だった。
『禁忌の森にて、尋常ならぬ事態が発生しました。ひとまず帰還します』
簡潔すぎて、一瞬意味がつかめないくらいに。
「……禁忌の森?」
いぶかしげにつぶやいた誓約者たちに、どこから説明したものかとギブソンたちが頭を抱えたのは、また別の話。
とりあえず、
「……とんでもない事態になったみたいね」
そうつぶやくミモザのことばは、ほぼ、間違いなさそうだった。