たちが遺跡に吸い込まれたあと、外に取り残された一行は、なんとかして彼らを助け出そうと――内部に入ろうと、さっきから攻撃を繰り返していた。
だが、カザミネの居合いでも、シルヴァーナの炎でも、遺跡の外壁はびくともしない。
いらだつ気持ちが全員に伝播して、それが攻撃に力を入れさせる。
「シルヴァーナ! もう1回同じトコ狙って!!」
勇ましく吼えるシルヴァーナの炎が、遺跡を覆う。
けれど、それは表面の草を燃やし尽くすことはできても、壁自体へダメージを与えきれていない。
「おおおおおおおッ!!」
ガキィッ、と、渾身の力で振り下ろされたリューグの斧も、金属と金属のぶつかる嫌な音を立てて弾かれるだけ。
残された全員が、可能な限りの手段を駆使しても、遺跡はもう、うんともすんとも云わなくなっていた。
大剣をふるっていたシャムロックが、しびれた手の感覚を取り戻そうと軽く振りながら、いぶかしげに口を開く。
「しかし……彼らは本当に、この中にいるのでしょうか」
もしかしたら、まったく別の所に転送されたのかもしれない、と。
それはあり得ないわけではないのかもしれないけれど、きっぱりと否定する声が横からあがった。
「まず間違いありません」
あれと同じ仕組みの機械遺跡を、私たちは知っているんです。
そう告げるカイナの横で、シオンとカザミネが同時にうなずいた。
以前からの知り合いであるという彼らが、いったいいつ何の因果で、ここのような遺跡に遭遇することになったのか、それは、他の面々の預り知らぬところだ。
だが、それを差し引いても、はっきりとした口調で告げるカイナのことばは確信に満ちていて、信憑性を十二分に備えている。
「とにかく!」、
気を取り直すように、ケイナが叫ぶ。
「もう一度よ! 効くまで同じ場所を狙って攻撃してみましょう!」
彼女のことばに、全員が大きくうなずいた。
そうして、各々武器を構え、または召喚術を発動させようとした瞬間、
ビイイイィィィ……
そこら一帯に、耳障りな音が響き渡った。急に発されたその怪音は、おそらく眼前の遺跡から。
それはちょうど、内部にいるたちの目の前に、こちらの様子を映し出したスクリーンが展開されるのと同時だったけれど、もちろんそんなコトは誰にも判らない。
『警告します』
そうして響いてきたのは、先ほど、たちを転送するとか云ってのけた『声』。
『当研究施設への攻撃を中止し、退去しなさい。さもなくば、物理的に排除行動を行います。繰り返します……』
物理的排除行動。
そのことばの意味するところを瞬時に理解し、一同の間に緊張が走る。
「……なんかヤバそうな雰囲気になってきたな」
無意識にだろうか、タバコに火をつけながらレナードがぼやく。
森の中だから自粛しているはずなのだけど、そのコトを忘れるくらいの危険を覚えているのかもしれない。
額に冷や汗一筋流し、パッフェルが困った顔で笑う。
「に、逃げたほうがいいんじゃないかな〜……なんて……」
とか云いつつ動こうとしないのは、誰もそんなコトしないと判っているからだったりするのだが。
私も大概、お人よしに染まっちゃいましたね、と。不快でない自嘲を、パッフェル自身、口にはしなかった。
「ダメだよっ! たちを見殺しになんて出来ない!」
身体の重心を低く落としてかまえたユエルが、そう叫んだ。
その彼女の後ろ、遺跡の影になっている部分を見たロッカが、さっと槍を構える。
「……ええ。それに今から警告に従ったところで手遅れのようですよ」
一斉に。
ロッカの見ている方向に、視線が集中する。
ガサ、ガサガサガサ……
――生え茂った草を乱暴にかきわけ、禍々しい色の生き物が、数匹、姿を現していた。
じくり。
召喚術に長けた数人に、うずきにも似た動揺が走る。
「……悪魔め……」
「……いいえ!」
居合いの型をとりながらカザミネがつぶやいたけれど、カイナがそれに首を振り、否定的な答えを返した。
「これは……ただの悪魔じゃありません……!」
語尾にかぶさるように、遺跡の声が宣告を下す。
『退去の意志はないものとみなしました。これより、召喚兵器による物理的排除へ移行いたします……』