ぐっすり眠って夜が明けて。
またもや大人数でぞろぞろと押しかけたは、レルム村。アグラバインの家だった。
まっすぐ禁忌の森を目指そうという案もあったのだけれど、やはりこの人に何も云わずに行くわけにはいかないだろう。
とりあえず初対面のシオンの紹介をすませて、これからの一行の進路を聞いたアグラバインは、つと目を閉じる。
「……そうか。やはり行くのか」
こくり頷く数名と、視線に肯定の意志を乗せる数名。
いずれも、思うところは同じ。
それを見渡して、マグナが改めてアグラバインに向き直る。
「なんにしても、すべての始まりはあの森だったのなら、終わらせる方法も――せめて手がかりくらいは、あそこにあると思うんだ」
デグレアの求める機械兵器、そして、鍵であるアメルが眠っていたあの森。
「それに、もしお爺さんの話してくれたことが全部本当だったなら、今のデグレアにそんな力、渡すわけにいかないから」
トリスがそう云って、シャムロックが進み出た。
「貴方にしてみれば、複雑な気持ちかもしれませんが……」
「気遣いは無用じゃよ、トライドラの騎士殿」
片手をあげて彼のことばを遮り、アグラバインがゆっくりと視線をめぐらせた。
リューグ、ロッカ、アメルを、それぞれ均等に視界に収めて。口の端を持ち上げ笑みをつくる。
「わしの願いは、3人の孫たちが幸せに暮らすことの出来る世界――それだけじゃ」
孫、と。
云いきったときのアグラバインの表情に。少しだけ、記憶の霞が頭痛の形でを襲う。
優しい、強い――たとえ血が繋がっていなくても、それ以上の絆を持つことの出来ている、そのまなざし。
……知ってる。
記憶がなくても、たぶん、あたしは、知っている。持っている。
つい先日この村で邂逅した、ルヴァイドを思い出すのはきっと、そのせいだろうと思えた。
「……おじいさん……」
「――」
双子がそれぞれ、つぶやいて。
アメルが、アグラバインの手を握る。
「あたしたち、きっと此処に帰ってきます。だから待っていて、お爺さん」
大きな手を包む小さな手の少女に、アグラバインは頷いてみせた。
「……これを持っていくといい、きっとおまえたちを守ってくれるだろう」
アメルの手のひらに乗せられたのは、いつか見せてもらった天使の羽根。
話のとおりなら、もう十年以上は経っているはずだろうそれは、ちっとも輝きは失せていないように見える。
……それどころか、アメルの手に乗せられたことで、心なしか輝きを増したような気さえする。関係がある、と思っているからだろうか。
名残惜しそうにしているアメルの肩を、ぽん、とトリスが叩いた。
促された彼女は、もう一度アグラバインに向き直り、微笑んだ。――心から。
「――いってきます」
運命はまわりだしていた。
いつから、と問われれば、それに答える人の数だけはじまりはある。
アグラバインにとってのはじまりが、禁忌の森に足を踏み入れたあのときからだとするならば、トリスやマグナにとってはレルム村でアメルと出逢ったことがはじまりなのだろう。
――では。
この物事すべてにおけるはじまりは、と。
問うたところで、それに答えを返す者もいない。――まだ、いまこのときには。