あれこれと話し込んでいたせいか、サーカスはとっくに半ばの盛り上がりを過ぎていた。
トウヤが約束どおり言付けてくれてた、半券と半券をあわせて、入場させてもらって。
すでに満杯の観客席を横切りながら見下ろす会場では、すでにサーカスメンバー一同が並んで堂々のフィナーレ中。
そんななか、すたすたと席を横切っていくの姿っていうのは、さぞや目立ちそうである。
「遅かったな。もう終わっちゃったぞ?」
真っ先にを見つけたハヤトが、ポップコーン(らしき菓子)を持った手をあげて、呼び寄せついでにそう云った。
えへへ、と、頭に手をやって、はトウヤの隣に座る。使ったチケットの指定席どおり、彼の隣はきれいに一人分空いていた。
立見席の人たちに譲ってくれてても良かったのだけれど、どうやら、開場からこの時間までガードしてくれてたようだ。
ハヤトにつづいてに気づいたトウヤが、さりげなく、鎮座させてたでっかいぬいぐるみを退かす。……どうでもいいが、トウヤが買ったのだろうか。
ねだったのは子供たちの誰かだとは思うが、彼がぬいぐるみを買い求める姿というのも、いつかのピクニック発言に並んでなかなかファンシィ。
「で、見つかった?」
「結構探したんですけど、見つかりませんでした」
フィナーレへ盛大な拍手を送る子供たちに聞こえないよう、こそ、と耳打ちするナツミに、は小さく肩をすくめる。
「そうですか……ちょっと残念でしたね」
どうしてわたしたちのことそんなに見込んでくれるのか、訊いてみたかったんですけど。
そう云うアヤの右手と左手には、まったく同じジュースのカップ。
片方はすでに半分ほど減っていて、もう片方はまだ満杯。
満杯の方は、そのままに差し出された。
「でも、おつかれさまでした。喉渇いたでしょう?」
「ありがとうございます」
最初は冷たかったろうそれも、今となっては冷ましたぬるま湯のような温度。
それでも、やはり走り回ってしゃべって喉が渇いていたせいか、さして気にせず胃に流し込む。
「サーカス、楽しかったですか?」
「うん!」
ぱ、と顔を上げて答えたのは、最後の一人が引き上げるまで拍手していたアルバ。
「も、忘れ物なんてしなきゃ見れたのにね」
「あとで……お話してあげるね」
「うん、ありがとうっ」
そんな嬉しいことを云ってくれるラミに、思わず感激。
彼女の抱いたぬいぐるみごと抱きしめたら、ちょっとびっくりしたらしく、一瞬ラミの身体が強張ったけど。
すぐに緊張を解いてくれて、すり寄せられる金色の髪のやわらかさに、ちょっと――かなりうっとりしてしまった。
ラミのことばどおり、帰り道の話題はサーカス一色。
やれ人体切断だの空中ブランコだの、ジャグラーだの綱渡りだの。猛獣の火の輪くぐりに、ダーツ(人間のふちギリギリが的)に。
そうして、その話題が出たのは、フラットに帰り着いてから。
子供たちはフラットが見えると、サーカスで買ったお土産をリプレやガゼルに見せるために、先んじて孤児院のなかに駆け込んでいって。
それを見送ったたちは、のんびり歩いて進んでた。
「――さっきの玉乗りしてた女の子なんだけど」
ぽつり、ナツミが切り出した。
「あ、モナティって子とガウムって動物のことですか?」
特にガウムのほう、ゴムまりみたいによく跳ねるとか。
ちょっとうろ覚えだけれど、以前サイジェントに訪れたとき、たしかにそんな一人と一匹がいたような記憶がある。……もしかして、このへんで縁があったってことなのだろうか。
そうそれ、と、ハヤトが頷いた。
「なんか、気になること云ってたんだよな」
「別の世界から呼ばれて来た、っていうようなことを、云ってたんです」
ハヤトのことばへ、アヤが横から補足。
「それって……」
そのことばの示す意味は、この世界に暮らす者ならあっという間に思いつくだろう。ただひとつを。
――それは、召喚術。
――彼女たちは、召喚獣?