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-おなかがすいたね-




 とりあえず準備は整った。
 となれば、あとはサイジェントに向かい、綾たちを陰からこっそり見張らねばなるまい。
 そんなこんなで意見は一致し、再びふたりはサイジェントへの道を歩くことにした。

 ただその前に、障害物を一件排除せねばならなかったが。


「おい、手前ェら!」

 歩き出してすぐだった。そんな怒鳴り声が、背後から発されたのは。
「……」
「……」
 とバルレルは顔を見合わせ、同時に後ろを振り返る。
 多少動作がぎこちないのは、つい、さっきの出来事と重ね合わせてしまうせいだ。
 つらつら思いながら、完全にその人を視界におさめた。
 色白通り越して血色悪いだろう肌の色や、雪みたいに真っ白な髪、そのなかで異様なまでの鋭さを放つ真紅の双眸。

 ……ああ、やっぱり。

 お久しぶりです、バノッサさん。

 ふたりが生ぬるい笑みになったのは、至極当然のことである。
 こちらは向こうを知っている、なのに向こうはこちらを知らない、その矛盾。
 一年後にはたしかに顔見知りになるはずなのに、今は別人として顔を合わせている、その不思議。
「ガキと女を見なかったか」
「……あ、いえ」
 何か云おうとしたバルレルの鳩尾に肘を入れ(身長差があるせいで、いい位置に入りました)、は即座にそう答えた。
 バルレルの性格を判っちゃいるが、バノッサの機嫌はどうやら降下中らしく、わざわざ怒らせたくはない。
 ない……が。
 どうしても、ひとつだけ、たしかめないといけないことがあった。
「それって、どんな人たちですか?」
 覚えられてたら、飛びかかって頭シェイクしてでも忘れさせる。
 そんな無茶苦茶な覚悟を決めたの問いに、けれど、バノッサは忌々しげに首を振った。
「知るかッ! 人の目の前でぎゃーぎゃー喚きやがって、ろくに顔なんざ見てねーよ!」
「じゃ、なんで捜してんだよ」
「人の顔見て逃げるような奴にゃ、仕置きが必要だろうが。あァ?」
「……」
 睨めつける、その視線の鋭さに、思わずは喉を鳴らす。
 ――なんだか怖い。この人は。
 1年後に逢うバノッサは、なんていうか、それもそれで怖いお兄さんていう感じは確かにした。
 でも。
 今のこの人に感じるのは。

 もっと鋭い、それこそ触れただけで切れる、抜き身の剣のような剣呑さ。

「……ん?」

 ふと。
 バノッサの表情が変わった。
 まずバルレルを眺め、次にを眺め。
「手前ェ、召喚師か?」
「……はい?」
「そいつは召喚獣だろうが。だったら、手前ェがその召喚主じゃねぇのかよ?」
「召喚獣だぁ? この魔公子様に向か――げふ」
 肘鉄二発目。ごめんバルレル。
「えっと、召喚師ではないです。この子は、たしかにサプレスの住人だけど、あたしが喚び出したわけじゃないんです」
 遠い地で、今はまだ幸せなのかもしれないトリスたちのことを、ふと思った。
 まだゼラムにいて。蒼の派閥にいて。
 閉じ込められてはいても、優しい養父と兄弟子がいて。
 一年後、何が自分たちを襲うか知らない、クレスメントのふたりのことを。
「あたしは――」
 遠い地で、今はまだ幸せだった自分のことを、ふと思った。
 デグレアにいて。ルヴァイドがいてイオスがいてゼルフィルドがいて。
 彼らや、レイムたちと、穏やかに過ごしていた日々を。
 その日々にいる、“”のことを。

 ――あたしは。

  今、ここにいるあたしは、それじゃ …… 誰 なんだろう ?


「……あたしは」

 ぶん、と、大きく頭を振った。
 上手くまとめきれていなかった髪がほつれ、一房前に落ちてくる。
 視界の端に映る、赤い色の髪。昏い炎の色。
 映す双眸は、深い森の緑。

 そうだ。

 “”はここにはいない。

 ――あたしは、

「“”です」

「……あ?」

 唐突なその名乗り上げに毒気を抜かれたか、バノッサが怪訝な顔になる。
 それが、遠い未来に出逢う彼と同じ色を持っていて――少しだけ、安心できた。

 ところがだ。
 はそれで済んでも、バノッサの方はそうはいかない。
「俺様は、別に名前を名乗れって云ったわけじゃねえぞ」
 ほんの一秒もしない間に気を取り直したらしく、再び彼はたちを睨めつける。
 それどころか、
「まともに答える気がねぇんなら、手前ェらでウサ晴らししてもいいんだぜ?」
 金属の擦れる音高く、腰の二刀を引き抜く始末。

 未来以上にケンカっ早いなこの人。

「いやあの、出来ればあんまり昼間に体力消耗しないほうがいいんじゃないかなーなーんて」
「ワケ判らねえこと云ってんじゃねえ!」

 じりじりと後退しながら云ってみたものの、逆にそれが引き金になったらしい。
 太陽の光を剣に反射させながら、バノッサはたちに突撃をかける。
 覚えているそれよりも、遥かに勢いのある、だけど粗いその太刀筋。
 咄嗟に飛んで避けたけれど、なまじ動きそのものが本人なわけだから(実際本人だから当然なのだけど)、その微妙な差異がたちに動揺を生む。
「ほう」
 それまでとバルレルがいた場所、大きく土煙を上げて動きを止めたバノッサが、剣呑な笑みを浮かべた。
「いい動きしてるじゃねえか。素人じゃないな?」
(そりゃ、軍人ですし)
(だから魔公子なめるなってんだ)
 声には出さずに返答したあと、
「そんじゃ、今度はこっちから行くぜ!」
 バルレルが、高々と手を突き上げた。

 手のひらには、紫色の光を発するサモナイト石。――儀式跡から拾って来たものだ。

 かなり高位の召喚師たちが集まっていたらしく、どれもこれもが高位の存在を喚びだすためのものだった。
 は早々に物色を諦め未誓約の石を適当に放り込んだだけだが、バルレルは使えそうな誓約済みの石を数個、ちゃっかり手に入れていたというわけだ。
「なっ……!?」
 迸る光を目にした、バノッサの表情が驚愕に歪む。

「なんで、召喚獣が召喚術を使えんだよ!?」

「――へ?」
「やべっ」

 一瞬呆気にとられた、ことばの意味を正確につかんだバルレル。



 “――召喚術というのは、元来誰にでも使えるものだ。だが、派閥は長い間その事実を隠匿し、自分たちのみが術を行使出来る存在なのだと人々に信じ込ませている。何故だと思う?”
 “それは……やっぱり、特権持ってるといろいろ便利だから?”
 “そうだな。それも間違ってない。ただ……”
 “ただ?”
 “召喚術について正しく理解するには、それなりの年月を傾けなければならない。だが、誓約済みのサモナイト石を用いて召喚を行うのは、ひどく簡単だ”
 “名前を判ってて、喚びかければいいんだもんなー”
 “つまり、むやみやたらに誰しもが召喚術を使うようになれば、混乱が起こることは避けられない。金の派閥は自分たちの利益のためかもしれないが、蒼の派閥がそれを秘めつづけるのは、そういった理由もあるからなんだ”


 “だから君たちも、あまり他人に漏らさないようにしてくれよ”



 映像のフラッシュバック。
 それを覆い尽くさんと、紫の光が一帯を走る。

 ざあ、と、とバルレルの顔から血の気が引いた。

「ごめんネスティ――――!!」

「だーもー知らね――――!! こいやガルマザリア――ッ!!」

 頭を抱えたの横で、バルレルの召喚術が完成する。
 臨界に達していた召喚の光を、霧散させるわけにはいかなかった。それこそ、行き場のない力がどうなるかわかったものじゃない。
 そして。
 バルレルの声に応え、魔臣ガルマザリアが荒野の只中にその姿を現して。
 以前、ファミィの召喚術を遠目に見ただけだったため、おぼろげな印象しかなかったガルマザリアの姿を、は初めて間近で目にすることになった。

 悪魔らしくというのだろうか、黒で統一された衣装、片手に携えた、槍とも矛ともつかない諸刃の武器。
 深く装着された額当ての下からは、鋭い双眸が覗いていた。
 そうしてガルマザリアは、バルレルに軽く目礼し、バノッサに向き直る――や、否や。

 手にした武器を、音高く地面に突きたてた――





 その後の顛末については、推して知るべし。
 バノッサを地震で目くらましした隙に、とバルレルはとっととあの場を後にした。
 用の済んだガルマザリアは、そのまま送還されるはずだ。
「……ねえバルレル」
「云うな」
「でも」
「云うなっつってんだよ」
 サイジェントの一角、ようやく見つけたフラットのアジトが見える路地の片隅にふたりはいた。
 もう、辺りは真っ暗だ。
 さすがスラムと云うべきなのか、周囲に光というものはあまりない。
 夜空に浮かぶ大きな月と、当のフラットから零れる光が、かろうじてふたりの視界を確保していた。

 ――賑やかな声が、たちのいる場所まで聞こえる。
「ガゼルさん、リプレさん……あとエドスさんにレイドさん……それに、えーと」
「あとはガキどもだろ?」
 声が聞こえるたびに指折り数えるの横から、バルレルがときどき注釈を入れる。
 綾たちの声がないのは、たぶん、もう寝てしまったせいだろう。
 バノッサが追ってこないことを確認して、ようやく追いついたので途中経過はいまいち把握出来ていないが、ふたりが出くわしたのはちょうど、ガゼルが4人を恐喝しようとしているところだった。
 止めようかどうしようかと迷ううちに、レイドという男性が割って入って、一応事なきを得たようだ。
 そのまま4人はフラットに連れられ、たちもそれを追いかけて、現在にいたる。
 そういえば、バノッサはたしかフラットにケンカ売りにきたと聞いたが、それは今夜ではなかったんだろうか。
 だとしたら、昼間荒野でガルマザリアかましたのは、あまり気にしないでよさそうだ。
 そんなこんなで彼らが宿を得たことに安心したものの、それじゃ自分たちの寝床はどうするのか――と思ったが、実は考えるまでもない。

「最初、人数少なかったんだね……」
「それが何日かすりゃ、うち以上の大所帯になるってんだから、ある意味スゲェよな」
「うん。人生ってままならない」
「人生かよ」
 切なげなにそうツッコミを入れたバルレルの耳に、

 ――ぐう。

 と、ささやかな胃袋の自己主張。

 とたん、がますます情けない顔になる。
 っていうかすでに涙目。
「ねえ」
「云うな」
「やだ、云う。おなかすいた〜!」
「云うな、オレまで腹が減るッ!」
 そう。寝床を探すも何も無い。宿に泊まれるわけがない。

 実に。
 実に情けない話だが、ふたりは一文なしだった。

 部屋でくつろいでいたところを、いきなりかっ飛ばされたのだ。何の準備が出来ようか。
 野盗でもいればぶちのめせたのだが、あいにくそういうときに限って出てきやしない。
 かと云って、そこらのゴミ箱をあさるとゆーのは、さすがになけなしの誇りが邪魔をする。
「……明るくなったら、そのへんの野草適当に摘んで食べよっか」
 だいじょぶ、アク抜きしたらそれなりにイケるのがあるはず。
「そーだな……」
 もはや云いあう気力もなくなったふたりは、そのままぐずぐずと地面に崩れ落ちる。

 ――そのまま、スラムの地面がふたりの寝床になるかと思われた、が。


「――放っておけよ、ふたりとも」
「僕たちには、浮浪者に関っている暇はないんだ」
「でも、今にも死にそうだよ」
「どうせ近いうちにそうなるのだし、せめて今は生き延びて欲しい……」

 不意に。
 それまで何の気配も感じなかった路地の角から、複数の人間がわいて出た。
「誰が浮浪者か……」
 ある意味トドメとも云える一言に、はそのまま突っ伏した。
 逆にバルレルは身体を起こし、眼光鋭く声のした方をすがめ見る。
 気配はよっつ。
 ふたつは角から動かず、ふたつがこちらに近づいてきていた。
 敵意は感じない。
 巧妙に隠しているのかもしれないが、それでは足音を立てている理由が説明つかない。
「キミたち、おなか空いてるよね?」
 声が届く距離まで来た時、近づいてきていたほうの片方が、そう声をかけてきた。

 聞き覚えのあるそれに、もバルレルも目を丸くする。

「カ――」

 べし。

 開きかけたの口を、バルレルの手のひらがふさぐ。
「……ふごもご(……痛い)」 
「・・・元気そうですね」
 もう片方が、そんなふたりの行動に、少し雰囲気を和らげた感じ。
 ――笑っているのだろう。
 こんな空気を知っている。
 というか、今はシルエットになってしまってるその人物自体を、たぶん自分たちは知っている。
「良かったら、これをどうぞ」
 シルエットの手が、ふたりにむけて伸ばされる。
 その上から、ふんわりと、鼻孔をくすぐるいい匂い。
 いくつかの小さなパンが、その発生源だった。

「……く、くださるんですか?」

 咄嗟にパンに向かって伸びた手を根性で押しとどめ、はシルエットを――彼女らを見上げた。
「うん。こんなのでも、野草よりはきっとマシだよ」
「・・・・・・」
 聞かれてたのか、あの情けない会話。
 がっくりうなだれたの横、バルレルがさっさとパンを受け取る。
「おら」
 ひとつにかぶりつきながら、とりあえずひとつをに放った。
「いただきます……!」
 は両手でそれを受け取って、やっぱり、バルレルと同じようにかぶりつく。
 なんだか、数日振りにご馳走食べたような気分だ。
 保存食の意味が強いのか、水気も少ないしちょっと固いし、でも――とても美味しい。

 それに嬉しい。

 知り合い(になる予定)の彼らに逢えたことや、彼らがこんなふうに優しさを見せてくれることが。


 そうして、一心不乱にパンを食べるたちを、やってきた彼女達は黙って見守っていたけれど。
「……差し出がましいかもしれないけど」
「はひ?(はい?)」
 もぐもぐもぐ。
 パンを口に入れたまま、話は聞こえたよの意図を含む疑問符。もちろんその先も促す意味も込めて。
 バルレルは返事さえしやしない。
 よっぽどパンに集中してるのか、それとも、返事するのを面倒がっているのか。たぶん後者。

「もしこの街に、ただ立ち寄っただけなら……早く出て行ったほうがいいよ」
「……?」
 首をかしげる。
 闇夜で果たして、目の前の彼女等に見えたかわからないけど。
 沈黙は疑問ととられたか、再度、ふたりは口を開く。

「――私たちに、こんなことを云う資格はないけれど」
「……逃げて。出来るだけ早く、出来るだけ遠くに」

「・・・・・・」

 それまで暖かかった周囲の空気が、とたんに温度を下げたような気がした。



 硬直した浮浪者(「やめてくださいお願い。」)ふたりに背を向けて、彼女たちは、待たせていた兄弟のところへ戻る。
「……カシス、クラレット。何話してた?」
「聞こえてたんでしょう、ソル?」
 苦い顔で訊いてくる兄弟の一人――ソルに、クラレットと呼ばれた少女は小さく首をかしげてみせた。
「そんな睨まないでよ、キール。父様の計画のことなんか、全然話してないじゃない」
 クラレットの隣では、カシスが、キールの視線を受けて肩をすくめている。
 応えて、それはそうだが、と、キールのため息。
「どこからどう情報が漏れてしまうか判らないんだ。……出来るだけ、他人との接触は避けるにこしたことはない」
「俺たちのやるべきことは、あいつらの監視だ。それから――」
「ソル、その先は云わないで」
 ぴ、と。
 手を伸ばし、ソルの口を覆う形で突きつけて、カシスが嘆願した。
 何かを堪えるように下唇を噛み、俯いて、けれど声音にはソルのことばを止めるだけの強さがあった。
「……悪い」
 カシスのことば、その外にも含まれた意図を正確に察し、ソルは小さくつぶやく。
 口にしなかった“それから”の代わりとでもいうのか、そのまま踵を返した。
「行こうぜ。――あまり同じ場所に留まるのも、危険だからな」
「ああ……」
 キールが頷き、カシスとクラレットが、彼らから一歩遅れて歩き出す。
 足音がスラムに木霊するほんの数秒の間に、彼ら4人の姿は、夜の闇に飲み込まれていった。


 別に、彼らが間抜けなわけではない。
 にしたって、別にどうしても彼らの話を聞きたいと思ったわけじゃない。
 話はただ、バルレルの聴力を彼らが知らずにいた、それだけの理由に収束するのだけど。
「……胡散くせーな」
 カシスたち一行の話を、逐一に聞かせていたバルレルは、彼らが立ち去ったあと、そうつぶやいた。
「考えてみりゃ、オレら、この話の細かい部分て知らねえんだよな」
「そうだよねえ……なんか、ソルさんたち、どう見ても綾姉ちゃんたち監視してるっていうか、仮想敵な感じがするっていうか……」
 なまじ未来を知っているからか、今の彼らがとても痛々しく思えてしょうがない。
 わだかまりなく笑いあう、彼らの表情を知っているから、違和感を覚えずにいられない。
 まるで、これから大罪を犯すのだと云わんばかりの、彼らの姿。
 ――ああそうか。
 何かを思い出すと思ったら……

 我知らず、ぎゅ、と膝を抱いて頭を押し付けた。


 そうだ。
 彼らの姿が誰かに重なると思ったら、――あのひとに。あのひとたちに、似てるんだ。

 ライルの血筋の伝える記憶をひとりで抱いて、苦しんでいたネスティ。
 クレスメントという一族の意味を知って、泣いていたマグナとトリス。
 レルム村へ一人で赴き、すべての怨嗟をその身に受けようとしていたルヴァイド。

 すべての罪業はこの身にこそあるのだと、嘆いていた彼らの姿に。
 ――似てるんだ。


 まずい。
 これはまずい。

 あんな痛々しいもの目にして、このまま傍観者でいられるだろうか。


「――ほら」
「へ?」

 は、と思考の海から舞い戻るや否や、頭にぼすっと何かがかけられる。
 ……毛布だ。
 こんなもの、どこから――そう問うより先に、答えはもらえた。
「そこに落ちてた」
「ヲイ」
 思わず半眼になったものの、別に虫がわいてるとかではないらしい。
 まあ、昔、立地条件の悪い場所で野営したときなんか、岩場に固まって寝たぐらいだから、毛布があるだけマシなのだけど。
「……ってバルレル」
 半眼になったついでに、隣に座っていた魔公子を見れば、彼はいつの間にやらちびっこ姿に舞い戻っていた。
 唐突な変身に呆気にとられたをちらりと見、バルレルは毛布の半分に包まりこむ。
「面積節約。今ごろ通りかかる奴もいねーだろ」
 それでも念のため、ふたりして身体をずらし、ぱっとは見えない位置に潜り込んで。
 そうして、やっと一息。
 バルレルの小さい身体を抱っこして、は毛布に包まりなおした。

「明日になったらさ、まず食事して、適当に野盗とか見つけて襲撃して、当座の資金手に入れて、宿探そっか」
「……念のため訊くが、飯の材料は何だ?」
「野草。」
「結局ソレかよ……」

 あんまりにもおなかが空きすぎていたせいで、さっきもらったパンはすべてふたりの胃の中だったのである。

 何はともあれ、ひとまずの休息。
 ――穏やかに、夜は更けていく。


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