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-味の保証はありません-




 問:目の前にキノコがあります。どうしますか?
 答:とりあえず焼いて、食べてみます。

  ――良い子も悪い子も真似するな。



 ジンガがフラットの正式居候になって、数日。
 その間実に平穏で、綾たちをはじめ、ソルたちもガゼルたちも、それぞれの日常を謳歌していた。
 バイトしてみたり例によって野盗しばいてみたり訓練してみたり手合わせしてみたり……
 特に、フラットのある南スラムから最短距離のサイジェントの壁。そこを抜けた先の荒野では、毎日のようにジンガとが元気に拳を交える声が聞こえたりもしていた。
 そんなある日のこと。
 きっかけは、のこの一言だった。

「ねえ、ストラって、あたしにも使える?」

 とどめは、ジンガのこの返答だった。

「おう! アネゴだったらきっと使えるぜ! 俺っちが教えてやろうか?」

 バルレルがぽつりとつぶやいた。

「テメエら、実は精神構造一緒なんじゃねーか?」



 そんなお気楽なノリで向かったのが、先日狩人の少年に入るなと怒られた森である。
 正式名称かどうかは判らないが、そこは通称ガレフの森と呼ばれているらしい。
 荒野の一角に存在しているわりには、けっこう広くて奥深い。
 傍を流れるアルク川の水が、一部地下をとおってこちらに流れているからとの説もあるとかなんとか。
 だからかどうかは判らないが、静かで空気が済んでいて、精神集中を要するストラの訓練には好都合なのだと、これはジンガのセリフ。サイジェントに来る前、遠目に眺め、これはいいと思ったのだそうだ。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 問題なのは、

「……何、これ」
「バカでかいキノコ……に見えっけど……」
「ってーかそのものだろ?」

 そう。
 どうせやるなら、奥なら人もこないし平気だろうと云いだしたのは、果たしてどちらだっただろうか。
 いつかのスウォンのことばは気になったものの、魔王をブチのめした経験のあると、ブチのめされた当人ではないけど魔王のバルレルと、いついかなるときも全力一直線のジンガのトリオ。

 止め役、もしくは宥め役、それらに類する役回りの人間は、幸か不幸か彼らの傍にはいなかった。

 その結果、ずんどこずんどこ奥に来て、彼らが目にしたものはというと。
 でっかいでっかいキノコの親子、だったりしたのである。
 実にファンシィな、あからさまに毒持ちっぽいどす黒い赤色の笠。うどろうどろとプリティに蠢いているのは、根っこというか触手というか。
 そして、特筆すべきはそのでかさ。
 大人何人かが腕を目一杯のばして、やっと抱え込めそうな幅。当然、高さもちょっとした庭木ほど。
 それが親キノコ。
 でもって周囲には、同じ色で同じカタチのミニチュア版、おそらく子キノコがうぞうぞうぞ。
 なんともファンタスティックな眺めである。
 夜中にライトアップされてるのなんか見たら、夢でうなされること絶対必至、大決定。

 しかし。

 どんなにでかかろーとグロかろーと、キノコはキノコである。

 加えて、森の奥では判りづらいが、太陽はとっくに中天近くまでお昇りあそばしていた。
 つまり昼である。
 飯時である。

 ――ぐう。

 3人の胃は、実に正直だった。

「じゃあ、ちょうどいいからお昼ご飯に」

「するなあああぁぁぁぁぁ――――――!!」

 ・・・間一髪。
 走りこんだガゼルの投げた飛び道具は、いざ進もうとした3人の足元に、きれいに並んで突き立ったのだった。


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