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-少年は証言する-




 とりあえず、賭け事っていうのはどう転んでも、胴元が儲けるっていうのは、もはや確定事項らしい。
 その日の夕食は、ご機嫌なリプレママのご馳走大盤振る舞いだった。



「なんか、まだ腕が痺れてる気がする……」
「俺っちも、脳天がぐらぐらしてるんだけど……」
 重心の乗った拳を受けたり、踵落としをモロにくらった後遺症を訴えるふたりを、その場の他の人間は、生暖かく笑って見守っている。

 てゆーか、それだけですんでるのがスゲェよ(一同心の声)

「いやあ、しかし、久々にいい勝負を見せてもらったぞ?」
 昼間の騒動で、ガゼルがやり残してしまった薪割を手伝いつつ、エドスが豪快に笑った。
 その横で、そもそもの薪割当番であるガゼルが、鉈片手に頷いている。
「つうかよ……おまえ、充分徒手空拳でも飯食ってけんじゃねぇか?」
「ああ。私も久しぶりに、真剣に剣を交えてみたい相手が出来た気がするよ」
 レイドが何気に不穏当なことをほざくが、あえてスルー。

 夜の闇も少し濃くなり始めた時間帯、フラットの庭にいるのはとジンガの他に、薪割中のガゼルとエドス、涼みに出てきたレイド、それから、ちびっこで休憩するのと青年姿でも直に月の光からマナ吸収するのを秤にかけた結果、後者をとったバルレルである。

 とジンガが庭に移動した理由は、未だに手合わせの余熱が残っているため、冷ましに外に出てきた次第。
 目論見は成功し、少し肌寒い夜気のなか、ようやく冷静にお互いを語り合う余裕が生まれたところだったりする。
 ちなみに、手合わせの結果だが、見事引き分け。
 とゆーか収拾がつかなくなって、レイドとエドスに引き離されたというオチだ。
 ふたりとも、所狭しと動き回りまくり、観客にまで被害が及びかねなかったという事情もある。
「ジンガは、身体も軽いけど、一撃の重さが主体だから、力溜めてる間の隙があるんだよね」
「アネゴは手数が多いけど、俺っちより一発が軽いんだよな。それにしても、避けすぎだったけどさ」
 ……いつの間にか、お互い敬語ナッシング(いや片方は元々そうだったが)という友情まで生まれている様子。
 アネゴ呼ばわりについてはから抗議は出たものの、綾も籐矢も勇人も夏美も犠牲になったと聞いた時点で、白旗ぱたぱた。
「前から思ってたんだが、オマエ、ホントにオンナかよ」
 しみじみつぶやくバルレルのことばと、同じくしみじみ頷く一同の仕草は、レイドの発言に続いてスルー第二弾対象。
 だが、意外にも、それにジンガが反応する。
「いんや、アネゴは女だぞ。胸あったし!」
「……触ったのかよ、おまえ」
 ガゼルが、意外なものを見る目でジンガを凝視する。
 だが、ジンガは『後ろめたいところはない!』とばかりに胸を張り、
「俺っちが自分から触ったんじゃないぞっ。ほら、途中で俺っち、アネゴに腕つかんでぶん投げられたじゃんか」
 ――柔道曰くの背負い投げである。
 技名もルーツも、この世界にはない(と思う)。
 そもそも柔道を習った覚えもないが、そこはそれ、人間にはうろ覚えという秘密兵器があるのである。
「ああ、あったあった。豪快な投げっぷりだったよなあ」
 ワシにも一度、教えてほしいもんだよ。
 その光景を思い出したのか、エドスが再び笑い声をあげる。
 教えてもいいけど、たぶんあなたに投げられたらたいていの人は逝っちゃいそうですよ、と、が云うより先に、ジンガが「そうそれ!」と応じていた。
 要するに、腕を抱え込まれたときに腕が胸に当たった、と云いたかったらしい。

「だから、のアネゴは女だぞ。ちゃんとやわっこかったし!」

 そういうことを真顔で証言せんでいい。
 とりあえず、常識派であるレイドとガゼルとエドスから、踵落としを当てた脳天に拳骨をくらっているジンガを、は指差して笑ってみることにした。


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