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-帰ったらもう一度-




 魔王との戦いは開始されていた。
 悪魔兵たちはすでに、もうひとりの魔王に従う悪魔兵たちによって抑えられている。
 “なり損ない”と片方の魔王が称したその存在だが、それでも魔王は魔王だ。
 顕現した自身の扱いにようやく慣れた彼の繰り出す攻撃は、まさに熾烈の一言。
 降り注ぐ魔力の雨はかなりの広範囲をカバーする攻撃で、まず容易に近寄れない。
 運良く近づいたとしても、凝縮された魔力塊が降ってきて、大きなダメージは避けられない。
 まだ自らの身体を動かすことが出来ていないのが救いだが、受身の敵というのも、また、戦いづらいものだ。
 それでも、
「雷撃の網持つ機界の六芒――いでよ! ヘキサボルテージ!!」
「言霊の呪を持ち、滅式を行いたまえ!」
 ソルやカシス、キールやクラレット。
 誓約者たるアヤ、ナツミ。
 彼らの唱える召喚術が、徐々にではあるけれど、魔王を傷つけていく。
 父から教わった、痛苦によって従える方法ではなく、願い喚びかけるようになった彼らの召喚術は、技量の上昇もあるだろうが――並の召喚師どころの騒ぎではない威力だ。
 魔王がひるんだところに、ハヤトやトウヤが斬りつける。
 援護は、レイドやエドス、ガゼルといった特に気心の知れた仲間。
 スウォンとサイサリスが並んで矢を放ち、飛び交う魔力塊の軌道を少しでもそらそうと奮戦している。

 ……戦いは、終わるだろう。
 戦列を離れた場所に佇んで、とバルレルはそれを見守っていた。

 スタウトとシオン、暗殺者と忍者という微妙な職業の近さのせいか、彼らは常に魔王の死角から傷を負わせていく。
 死角といえばアカネもだ。
 いつかハヤトを巻き込んだ特訓の成果なんだろうか、それこそあちこちに神出鬼没して、敵を、たまに味方をひっかきまわしている。

 戦いは終わるだろう。

 ギブソンとミモザ。霊属性を得意とする魔王に、ギブソンの召喚術は通じづらい。
 でも、ミモザのメイトルパ系の召喚術をぶつけた影響が消える前に叩きつければ、術が共鳴して威力が倍増する。

 戦いは……終わる。
 勝者は、彼らだ。

「……終わるね」
「ああ」

 この物語のすべてを、自分たちは見たわけではない。
 たとえば、レイドとラムダが如何様にして和解したのか、また、エルジンたちが彼らに同行を決めた理由はなんだったのか――
 いくつかの謎。
 オルドレイクのことば、ウィゼルのことば。
 判らないままに終わる疑問。
 それでもいいよ。
 それでいいんだ。

 ――帰ったら。サイジェントへ行こうよ。
   そうして、この物語を最初からもう一度、あの人たちに話してもらおうよ――


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