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-共に在りて-




 止められなかった。
 防げなかった。
 やっとカノンが叫んだのに。
 やっとここまで来れたのに。

 バノッサは魔王になってしまった。

 割れた空。黒いよどみ。
 吹き荒れる嵐。力任せに叩きつけてくる悪意。
 いくら誓約者の名を持っていても、まだそれを受け継いだばかりの彼らの心は、こんなモノに相対する耐性など持っていなかった。
 それでも、動かずにいるのは。
 それでも、退かずにいるのは。
 自分たちの後ろに、仲間たちがいるから。
「……嵐のようだな」
 ふ、と、トウヤが云う。
「はい……」
「走馬灯ってこんなかな」
 アヤが頷く。ナツミがつぶやく。
 ここ数ヶ月間の出来事が、目まぐるしかった日々が、それこそ走馬灯よろしく彼らの脳裏をよぎっていく。
 でも、さ。
 走馬灯なんて、ちょっと縁起が悪いよ?
「怖いな」
「ああ」
 どんなに強い力があっても、この心は、ただ一介の高校生。
 どんなに強い力があっても、この身は、ただ人間のひとり。
「死ぬかも」
「ええ」
 ……それでも。
「守ろう」
 そうすることが出来る力を、俺たちは持っている。
「俺たちが守ろう」
 この世界。
 この街。
「ありったけの力で」
 ――ここにいる、大切な人たちを。
 ――ここにいる、大切な人たちと。

「俺たちが」
 ――守るんだ

 頷きあう、4人の心に応えるように、光がひとつ、輝き始める。

 優しく。
 あたたかく。
 そうして、ひどく懐かしい。

 彼らの裡に輝いていた光は4つ。
 リィンバウムの純白。
 シルターンの鮮赤。
 メイトルパの若草。
 ロレイラルの鋼色。

 そこに、もうひとつ――
 この物語の最初から、常に彼らと共にあった、最後の光が混ざり合う。

 ――菫色の光は告げる。
   我は、ずっとおまえたちと共に在った  と


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