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-送還レクチャー-




 果たしてバノッサは引き上げてくれたものの、今度はこちらの収拾がつかない。
 精霊はぴーぴー泣いてるし、悪魔はぽかぽか叩いてるし。
 綾も勇人も籐矢も夏美も、当然ガゼルもレイドもエドスも、どうしたものかと頭を抱えていた。
 一難去ってまた一難とはこのことだ。
 まさか、フラットにつれて帰るわけにもいかないし。

 頭を抱えた一同の耳に、軽い足音が響く。

「「「あ」」」

 レイドとエドスを除く全員が、その姿を認めて声をあげた。

「「「“通りすがりのフラットの味方”!」」」

「云わないでくださいッ!」

 即座に入る空中裏拳ツッコミ。
 その手はすぐに角度を変え、ちょいちょいと手招いた――誰をとは云わぬ、その手が向くのは精霊と悪魔。
「おいでおいで」
「ぴう」
「♪」
 とたん。
 少女に手招かれたとたん、精霊と悪魔はそれまでの泣き顔不機嫌吹き飛ばし、彼女のところへ飛んでいく。
「……あ、それ、君のペット?」
「そんなわけあるかー! あれは召喚獣だっての!」
 安心したような勇人の後頭部を、ガゼルがどつき倒した。
 少女は、それを見てくすくす笑う。
 自分にくっついた二匹を抱いて、そのままフラット一行の傍に歩み寄った。――もう数歩も近づけば、顔がはっきり見える位置。
 それを判っているのだろうか、そして意図的になのだろうか、彼女はそれ以上動かない。
 右腕に精霊、左腕に悪魔を抱いて、軽く首をかしげてみせる。

「この子たちは、あなたたちが喚びだした召喚獣です」

 あなたたち、で顔を動かし、綾と勇人を見る。
「そーらみろ」
 と、ガゼルが呆れたように云った。
 そんなこと云われても、いまだ自覚なんてないんだから、綾も勇人も困るばかり。
 少女は、精霊と悪魔を促した。
 二匹はこっくり頷いて、綾と勇人の目の前に戻ってくる。――ただし、今度は泣き顔も不機嫌顔もない。
 何かを待っているかのように、ふわふわと宙に浮いている。

「サモナイト石は扉を開く鍵。喚ぶ声は求める力。応える意思はその具現」

 こっくり。二匹が頷く。
 喚ぶ声が聴こえたのだと。
 だから自分たちは、応えてここに来たのだと。

「そうやって召喚された子は、元いた世界に還してあげないといけないんです」

「「……あ」」

 泣き顔と不機嫌の理由を悟って、綾と勇人が声をあげた。
「還すって、どうやるの?」
 その横から、夏美が問う。
「……簡単です」
 たぶん少女は笑ったのだろう――答える声の調子が、少し明るくなっていた。

「“ありがとう”って。そんな気持ちと一緒に、世界にお願いしてください。この子たちが還るための門を開いてくれるように」

 精霊と悪魔がうなずいて、綾と勇人をじっと見る。
 思わずその目を見返したふたりの脳裏に、まるで天啓のように閃く単語。

「……リプシー、ちゃん?」
「エビルスパイク……?」

「ぴっ」
「♪」

 今度は判った。
 これは、今目の前にいる、自分たちの声に応えて来てくれた存在の名だ。
 綾が、おずおずと腕を伸ばした。リプシーはその中に転がり込む。
 勇人が伸ばした手のひらに、エビルスパイクはしがみつく。

「……ありがとう」
「――おつかれさん」

 ことばは自然に口から紡がれた。

 あたたかな光が、リプシーとエビルスパイクを包み込む。
 思わず目を閉じた一行が、次に目を開けたときには、もう、二匹の姿は消えてしまっていた。
 さらりとひとつ、こぼれた光の最後の残滓が、二匹が確かにそこにいた証。

 そうして。
「おい、あいつは?」
「あの子はどうした?」
 きょろきょろと周囲を見渡すガゼルとレイドのことばのとおり。
 たしかに二匹の姿が消えるまで彼らを見守っていた少女もまた、姿を消していたのである。
 まるで、夜の闇にそのまま溶けてしまったかのように。



 ――もちろん、そんなわけもない。

「……意外にバレないもんだね」
「……そうだな」

 すたこらさっさと逃げてきたを迎えたバルレルが、その第一声に少しばかり遠い目をして頷いていたところだった。


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