カノンが姿を消したあとは、再び静寂が訪れた。
彼の持ってきたあれが夕食だったはずだから、そろそろ夜が深くなるころか。
彼の義兄であるバノッサの姿を、そういえば、移送されてから見ていない。
魅魔の宝玉があるとはいえ、やバルレルよりも魔力に対してはまだ耐性がないはずだろうから、最終的な慣らしでもしているのだろうか。
オルドレイクも一度たりとて姿を見せないことを併せて考えると、その可能性は高そうだ。
……まあ、今さらもう、何を話そうという気もないが。
見張りをしていた兵士は、さっきのこちらの会話を聞いていただろうに、オルドレイクに報告しにいく素振りも見せない。
いちいち報告するまでもない、ただの少年の世迷言、悪魔の戯言だとでも思っているのだろうか。
こうして大人しく捕まっているから、そう考えているのだとしたら、それはユカイな間違いだ。
「――――」
何をするでもなく周囲を見渡すの横で、バルレルは目を閉じている。
眠っているわけではない、第一こんなにサプレスの霊気が満ちた場所で、大人しく寝るわけもないだろう。
今にも飛び出して力を揮いたいのを、たぶん抑えているはずだ。
……バルレルは、目を閉じたまま。
……は、暇を持て余す。
「あれ」
何度目か判らない周囲の見物を終えたとき、はそれに気づいた。
そろそろ眠くなってきたので、もう寝ちゃおうかと思った矢先。時刻はおそらく、丑三つ時。
いつの間にやってきたのか、パラ・ダリオが二人の傍に姿を見せていたのである。
バルレルの不興を買ってはならないと、あまり姿を見せないようにしていたのに、どうしたのだろうか。
首を傾げるの前で、パラ・ダリオはまず一礼。
魔公子に敬意を払うのは判るけど、こっちにまでしなくてもいいのに、とは思うのだが。
――魔公子ハ、オヤスミ中デスカ?
「いや、起きてるぜ」
呼気ほどの大きさもない囁き声は、けれどサプレスの住人同士という共通点か。場に満ちた霊気を伝って、普段のそれと変わらぬ音量で互いの精神に届くらしい。
「何か動くのか?」
――我ガ召喚者ガ、コチラニ向カッテイマス
「オルドレイクが、こっちに来てるの?」
今まで一度たりとて、こちらに足を向けずに放置していた男が。
こうして、こちらに訪れるということは。
こくり。
パラ・ダリオが頷くと同時、草を踏みしだく複数の足音が聞こえ出した。
――魅魔ノ宝玉ヲ持ツ者モオリマス
同じく、こちらで一度も姿を見なかったバノッサまでもか。
「……てェことは、だ」
ニヤリ、バルレルが笑う。
「つまり――」
にんまり、もほくそえむ。
「いよいよ最後の大暴れ」
――時、近し。