【そしてお祭の一夜】

- その翌日 -



 ――そうして一夜の祭りは終わり、数日間の邂逅も終わりを迎える。

「それじゃ、お世話になりました」
「またいつでも遊びにいらっしゃいね」
「歓迎します」
「ありがとう」

 神社の境内はいつもどおりに片付けられた。まだ少し酒に湿った墓石だけがその名残。
 そして、この数日砂浜に停泊していた二隻の船のうち一隻が、海原へ漕ぎ出そうとしている。

「……間違えて襲ったりしないでくださいね」
「しねえって。返り討ちはごめんだぜ」

 もう一隻は、あと暫く間を置いてから出航する。
 その際ついでに増える乗客ふたりを、帝国付近まで送迎するのも彼らの仕事。

「どこかの港で見かけたら、あたしも乗せてもらっていいですか?」
「アナタなら大歓迎よ。子ギツネに逢ったら交渉してみなさいな」
「……子ギツネって」
「あれ、あんたも知ってたの? ――そう、息子だよ、家業は相変わらずだってさ」

 ささやかなお土産が、幾つか。
 女性陣が祭りの際にまとった着物は、それぞれへの贈り物になった。
 それから、写真が被写体となった各人へ。

「で、そっちはどうやって帰るんだ?」
「ご心配なく。ペンダント通ってすぐですよ」
「道があるんですよ。でも、折角だから、出航気分まで味わってから戻ります」

 今にも大空にはばたかんとしているのは、霊界サプレスの聖なる竜。
 但し、乗り込んでいるのは二名のみ。

「なあー! 船乗っていけばいいじゃないかー!?」
「冗ッ談じゃねえッ!! 仲良しごっこは手前ェらだけでやってろッ!!」
「すみませんー、照れ屋さんなだけなんですよー! あいたっ」
「あはははは、じゃ、またサイジェントでねー!」

 楽しげな言葉、楽しげな表情。
 交わされるやりとりは、春風のように弾んで遊び。
 名残惜しさは尽きねども。

「――それじゃあ」
「さようなら!」


 またね、なんて誰も云わない。
 次の約束は、だって、要らない。
 だからこれこそ、違えようのないたしかな約束。




 ――歩きつづけるその限り、道はまた、きっとどこかで出逢うのだ。



 だから、特別な何もは必要がなく。
 ただこれは、祭のおしまい。彼らは再び日常へ戻る。

 そう、それだけのことである――




-LAST EPILOGUE-