あの戦いの結果を記せと云われれば、誰もが痛み分けと書くだろう。
暴れ狂った二本の魔剣、そして割り込んだ白い焔によって、結局どちらも決定的なものを相手に与えられぬうちに、互いの戦力を減じさせてしまったのだから。
すべてを覆い尽くした白い焔が消えた後、レックスもイスラも、いつもの姿に戻っていた。
息は荒く、眼はどこか虚ろ。――とても、再度抜剣の出来そうな体勢ではなかったろう。
退きどきとみたオルドレイクが、そこで撤退を指示。
猛り狂った魔剣の力がよほどご満悦だったか、焔が猛るなか、どさくさ紛れに走り回った海賊一家が救出した風雷の郷の民になど、見向きもしなかったほどだ。
……だから、痛み分け。
ただ互いが消耗し、その場でそれ以上戦闘をつづけられなくなっただけ。
無色の派閥はまだ島にいて、魔剣は未だ存在している。
そう――二本の魔剣は存在している。相対する集団に、それぞれ分かれて。
まだ、どうにかなると思っていた。
無色の派閥が相手でも、それは人間で……だから、みんなで頑張れば、島から追い出すことが出来るだろうと。
でも、それが崩れた。
かろうじて保たれていたパワーバランスが、イスラの手にある紅の暴君によって、均衡を崩したのだ。
それをもっとも痛感しているのは、誰に他ならぬ――
けれど、誰もその話をしなかった。
する暇さえなかった、と云い換えてもよかろうか。
「……もう寝なさい」
船の入口、砂浜に佇む小さな人影に、出てきた人影が声をかけた。
「でも」
「探すのはカイルたちに任せなさい。こうして待ってても、アンタたちまで倒れるだけよ」
傍にいたさらに小さな影が、ひとつ鳴いた。
「……」
「他のコたちも部屋に行ってもらったわ」
寝れないでしょうけど、横になるだけでも違うから。
なおも二の足を踏む小さな人影に、出てきた影は、さらに告げる。
「あのコが帰ってきたとき、アンタたちが倒れてたら、きっと怒るわよ?」
無理して含ませた茶目っ気に、初めて、小さな人影はその人影を見上げた。
「は」
帰ってくるのか、と、呼気としかとれぬ問いかけに、人影は、明瞭な答えは返さない。返せない。
その代わりに、自分には似合わないと皮肉な気持ちで短く告げた。
「希望を捨てる理由はないわ」
絶望を選択する理由もまた、同じようにないけれど――それは心でつぶやいて。
小さな人影は、それで、少しは気分が軽くなったらしい。
ひとつ頷くと、傍らの小さな影を促して、船のなかへと戻っていった。
遠ざかる足音を見送って、残された人影は、ひとつ盛大なため息をつく。
それは、今ごろ、疲弊しきった身体を酷使して島中を走り回っているであろう一家の兄妹と幼馴染み、護人たちの数時間に渡る粘りへのものでもあり――それほどの時間をかけてもまだ朗報ひとつよこされぬ、探され人へのものでもあった。
「ま……センセたちが倒れてくれててよかったかもね」
起きてたら、それこそ、自分たちが倒れるまで探してたかもしれないし、ね。
誰も聞く者などおらぬそれを風に乗せて、人影もまた、船へと戻る。
戦いが終わると同時、糸が切れたように倒れてしまった姉弟の様子を――眠りつづける彼らが、せめて今くらいは安らかにあってくれているかどうか――みるために。
――行方不明。
――生死不明。
――痕跡皆無。
その報がもたらされるのは結局、空がしらみはじめるころ。
捜索に出払った残りひとりが戻らぬなか、鎮痛な面持ちで集まった彼らは、その事実を認めざるを得なかった。
――いなくなって、しまったのだと。