アメルと何があったかは、とりあえず、実行したりバレたりするまで、自分ひとりの心に留めておくことにして――なんか精神的にどっと疲れたような感覚を覚えつつ、その彼女と別れたは、廊下をちんたら歩いていた。
たいていの人間は出払ってしまったのか、屋敷に、人の気配はあまりない。
それでも、犬も歩けば棒に当たる。
すっかり仲良しになっているミニスとユエルが、レシィとハサハを交えてお茶をしていた。
ふと窓から見た庭では、エスガルドとレオルドが一緒に日光浴をしている。
確認できたのは、まあ、それくらいだったが。
ああ、そういえば、大量のケーキを持ってそりゃあうれしそうにテラスに向かうルウとギブソンさんも見たような……
今のにとっては精神へのダメージが計り知れなさそうで、思わず見なかったふりをしたのだけれど、今にして思えば、えーと。その。なんだ。
……あれ全部、ふたりで食べる気なのか……?
「あ、目眩が」
くらくらくら。
甘党の破壊力おそるべし。
わけの判らんコトを考えつつ、思わず壁に寄りかかる。
「あら。、どうしたの?」
と、そこに現れたのはケイナとカイナ。シルターン仲良し姉妹だった。
「いや、あはははは」
ケイナの問いに意味不明な笑いで返しながら、ふと、ふたりの持っている荷物に気づく。
タオルに洗顔料、ブラシ、おそらく着替えと思われる包み。
「これからお風呂?」
問えば、そうよ、とケイナが頷いた。
「今日のところは、さっぱり汗を流して骨休めするつもりなの」
ここのお屋敷のお風呂は広いから、くつろげていいのよねぇ。
もうすでに心はお風呂に飛んでいるのか、顔をほころばせまくりながらの返答である。
も、この屋敷の風呂で泳いだ記憶があったりするし、ケイナの気持ちもよく判る。
よく判るが……
「♪ ♪」
そこで、音符を四方八方に撒き散らしている妹さんが見せてる、お姉さん以上のはしゃぎっぷりが気になるんですけど。
お風呂はたしかに気持ちいいが、そこまで嬉しいもんなんだろうか。
「だって、だって、ねえさまとお風呂に入るなんて、本当に久しぶりなんですもの」
問えば、やっぱり相好を崩して――いや崩しまくって、そんなお返事。
「……あ……そっか」
カイナがエルゴの守護者になって、どれほどの年月が経つのかは知らない。
けれどいつだったか、禁忌の森で初めて逢った日の翌日くらい、たしかエスガルドが云っていたような覚えがあった。
彼女はエルゴの守護者として、長い間、ひとりで鬼神の谷に暮らしていたのだと。
――それはどんな気持ちだろう。
いつか考えたことがある。
他者とのかかわりをあまり持たず、ずっと、そこにひとりで居続けるというのは。
守るためとはいえ、使命とはいえ、――ずっとひとりで。
……今は、なんとなく判る気がする。
ほころびかけたせいなのか、それとも、見向きもしなかったそれに、やっと意識が向き始めたせいなのか、わからないけれど。
あたしはたぶん、その孤独を知ってる気がする。
そのために生じた涙も嘆きも慟哭も――きっと。
「……私が小さかった頃は、母さまの代わりに、ねえさまがお風呂に入れてくれてたんです」
ふと。逸れた意識を思考から戻せば、まだカイナは嬉しそうに話していた。
なんて云うのか、もう、本当にうれしいんだろう。笑顔満面、語る頬がうっすら桜色。
「髪がひとりで洗えなくて、いつも、ねえさまに洗ってもらってたっけ。……懐かしいなあ……」
そんな妹を見るケイナの目も、とても優しい。
「うん、だったら今日は、私がカイナの髪を洗ってあげるわね」
「え?」
懐かしそうに思い出を話していたカイナは、不意に告げられたケイナのことばに、きょとんとして姉を見上げた。
それから、すぐにことばの意味をつかんだらしく、少し戸惑ったような顔になる。
「でも、それは小さかった頃の話で――」
もうふたりとも成長してるのに、恥ずかしくないのかと。たぶん、そういう意識が強いんだろうカイナの返答。
それでもちょっと期待が混じってうれしそうなのが、なんとなく見ていて楽しい。
ケイナもそれは同じようで、「いいからいいから」と、笑って手を振った。
「今日は、ねえさまに甘えておきなさい?」
にこにことしたケイナのことばに、カイナの表情も、やっとほころぶ。
「……はいっ!」
「それじゃ、またあとでね」
「さんもごゆっくり」
そう云って、肩をならべて歩いていった姉妹を見送って、もようやく、自分の表情が弛んでいるのに気がついたのである。
ちょっと羨ましいけれど、ケーキ大量目撃のダメージが癒されたから、それはそれでOKかもしれない。
そういやお風呂っていったら、最初の何ヶ月かは大変だったなー。
触発されたか、ふと思い出したのは、デグレアでの生活。もう壊された思い出。
デグレアで生活することになったが寝泊りする場所は、養い親の関係もあって、当然黒の旅団の兵士たちがいる宿舎に決まった。
だけど軍というだけあって男所帯。
つまり、風呂も男風呂オンリー。
軍全体の世話をする女官たちがいるにはいたが、彼女たちは、別の棟に住んでいた。あっちに任せればよかったのかもしれないが、自分が世話をするのだと決めたルヴァイド、そこまで考えられなかったらしい。
で、その風呂。女官たちの別棟に行けば女風呂はあったが、生憎デグレアの気候のおかげで、行って戻る間に湯冷めて風邪だ。
で、総指揮官殿がどんな命令を出したかというと。
急ピッチで、宿舎内に風呂増設。
しかも顧問召喚師の同意書付き。
製作中、顧問召喚師には見張りがつきっきりだったらしい。
でもって完成するまでは、兵士たち用の大風呂を、彼らが入る前1時間だけ占領して使っていたのである。
いやあ、泳ぎまくった泳ぎまくった。
ここぞとばかりに泳ぎまくりましたよ、あたしは。
たまーに天井裏あたりで、『この腐れ害虫が―――!!』とか『私の愛の前には障害等あってなきがごとし!』とか叫びとか剣戟とか駆け回る音とかのたうつ震動があったみたいだが、それはまあ、気のせいってことで。
たまーにそういった騒ぎの後、天井ににじみ出ていた赤い染みも気のせいってことで。
「……」
つーか。
そこで、現在のは、ちょっぴり遠い目になった。
その当時、純粋に、
『あれは風呂場の守護神と敵が戦っているんだ』
とかいう作り話をしてた総指揮官を、まるっと信じていたことを、思い出したせいである。
――なんかもう。ダメだろデグレア。その当時から。
……やっと思い出したお父さん、お母さん。
あなたたちの娘は、こんなに強くなりましたよー。
天を仰いで、二度と逢えぬ父母に報告をしていると、姉妹の去ったのと反対側から、足音がひとつ、やってきた。
「うむむむ……」
そう唸りつつ姿を見せたのは、ケイナの相棒こと、フォルテ。
いったい何を悩んでいるのか、滅多に見せない真剣な表情で、腕組みしつつ歩いている。
正面にいるにも、気づいていないようだ。
「フォルテ」無言で避けてもよかったが、ちょっと気になって問いかけた。
「何、唸りながら歩いてんです?」
「――っと!? あ、なんだか……」
「なんだとはご挨拶ですな」
「あ。と。いや、悪い悪い」
そのままのところまで歩いてきたフォルテは、やはり何か考え込んでいるようだった。
眉根を寄せて、今しがた、ケイナとカイナが歩いていった方を親指で示す。
「いや、な……」
何か彼女たちにあったのだろうか。深刻なフォルテの表情に、ふと姿勢を改める。
「姉妹で仲良くお風呂という、夢のような状況を前にして、オレの熱い魂が放っておくなと叫んでるんだが……」
オイオイオイ。がくり、膝が落ちる。
「……だが?」
「問題なのは、一方がケイナってことなんだよなー」
オレの本能が、命に関わる危険だ! と告げやがるんだよ。
「……」
握りこぶし作って云われても、反応に困るんですが……
膝どころか全身の力が抜け、壁に寄りかかってコメントに窮するを余所に、だが、フォルテは次第にエスカレート。
「やはり止めるべきか、いや……しかし! こんな状況は二度とこないかも……!!」
「…………」
「あーっ! 悩むっ! まさに生涯最大級の難問だぜっ!!」
どんな生涯か300文字以内で回答せよ。
(以下の単語は絶対に使用すること:のぞき、剣、シャムロック、道場やぶり、運命、ケイナ、父)
当座返すべき反応を放り投げ、阿呆なコトを考えたの肩を、がっしとフォルテがつかむ。こっちの存在を忘れてはいなかったらしい。
「なあ。おまえたしか偵察兵――」
「ごめん。あたしとフォルテじゃ体格違いすぎるから、あたしのやり方じゃ無理だと思う」
つれない回答だが、事実である。ていうか、偵察のいろはなんか教えた日には、こっちの身だって危ない。
そのへん諸々が判ったのか、フォルテは、がくーっと脱力したのだった。
「だよなー」はあ、と残念そうにつぶやいて、「悪かったな引き止めて。どっか行くんだったんだろ?」
「あーいえ、あたしは今日は何も予定ないし……」
「そっか? まあ何にしても時間とらせて悪かったな」
オレは覚悟が決まるまで、もう少し考えてるからよ。
そう云って、手を振りつつ去っていくフォルテの後ろ姿を見送った、の感想はというと、
「まだ本能の訴えを無視するほど煩悩溢れてるのか……」
プラス、
「……なんかフォルテとシャムロックさん、足して2で割ったらちょうどいいんじゃないかな……」
だったりした。
そのふたりを最初に見つけたのは、トリスだった。
調査依頼へ同行する許可を貰いに行ったら、ミモザはいたもののギブソンがいなかったので、とりあえず彼女の了解をとりつけて、ギブソンがいるというテラスに向かう途中のこと。
あ、そうそう。蛇足。教えてくれたミモザがかなりうんざりした顔をしていたのが、実に印象的だった。それだけで、テラスで何が待ち受けているか想像出来てしまうあたり、どうなのだ先輩。
ともあれ。今出逢ったふたりは、そんなのとは関係ない。
「リューグ、アグラおじいさん」
ふたりで特訓?
「……なんだおまえらか」
「おまえさんたちこそ、3人揃ってどこか出かけるのか?」
斧をかついだリューグとアグラバインは、屋敷のなかではかなり浮いている。
いったい、どこぞの木こりの親子だって感じ。余計なお世話?
質問で返ってきた相手の反応に、「いいや」とネスティが応える。
「僕たちはギブソン先輩のところに用があるんだ」
「リューグたちは特訓?」
重ねて問うと、ぴこん、赤色触角揺らしてリューグはうなずいた。
「ああ。ジジイ相手にやるのも久しぶりだしな」
この間ファナンでやった大特訓大会のときは、ロッカとの勝負で体力切れして、アグラバイン相手までは出来なかったという裏話もある。
ちなみにあの大会、結局優勝者は出ていない。
「ああ、そうだ」
そのまま、「じゃあ」と別れて行こうとしたふたり――のうち、リューグが、ふと、マグナたちを呼び止めた。
「何だ?」
答えて振り返ったネスティへ視線を固定し、リューグは口を開きかけ――止めた。
そうして、少し何かを迷うように、視線を泳がせる。ややあって、ことばがまとまったらしい。小さく首肯して、一旦は閉じた口を開いた。
「に逢ったら、もしかしたら答えが出そうだって云っといてくれ」
何のことだ、何の。
主語なしのセリフは至極疑問だが、たぶん訊いたって答えまい。
そもそも、このメンバーが果たしてに素直に伝えるのかどうか、ちょっと考えれば判るだろうに。
……伝えるに決まってるけどさ。
頭上に疑問符を浮かべたままだけれど、トリスが大きく頷いた。
「うん、判った」
と、それが最後のやりとり。
に逢えたら訊けばいい。あの子なら、きっと笑顔で教えてくれるだろう。
それから、これは誰も予想していないことだけれど、きっと、喜ぶだろう。
『強さを求める理由』を問いかけようとしてやめた、あの夜を。がまだ、覚えてるならだけれど。
「あ、足して2で割れる片方」
「は?」
で。その笑顔で教えてくれると予想された当のは、庭でトライドラの騎士を発見して笑顔で意味不明な発言をし、不思議な顔をされていた。当然だ。
「ええと……?」
しばらく考えていたようだが、さしものトライドラの騎士も、やはり、ことばの意味はつかめなかったようだ。
ってか、つかめたらある意味すごいぞ騎士様。
同じ頃、蒼の派閥の兄弟弟子組が同じようにしているとは知らず、彼は、疑問符を頭上に浮かべてを見る。
「いえお気になさらず」
爽やかに笑っては云った。
それからふと彼の手元を見て、
「……何してらっしゃるんです?」
問えば、シャムロックは止めていた作業を見下ろして、ああ、と一言。
「剣の手入れだよ。本当は、ちゃんとした砥石があればいいんだけどね」
そう云う彼の手元にあるのは、ご家庭のお台所によくある、コンパクトな砥石だった。
たしかに、ミモザやギブソンは剣を使わない。
エルジンやエスガルドに至っても、片方は銃で片方は銃とドリルで……砥石の必要性はなさそうだ。
だからって、大事な剣のお手入れに、台所の砥石使いますか。
「……シャムロックさんも、なんかだんだん庶民派になってきましたねー」
うまくやれば、たしかに、手入れ自体の問題はないだろう。
だが、鍛冶屋に頼もうという発想の前に、ご家庭の砥石を借りるってあたりで、とみにそう思ったのだ。
「最初は、そう考えたんだが……」
が、指摘したら、シャムロックは笑いながらそう答えた。
「だけどこれから何があるか判らないし、少しずつでも臨機応変に対応できるようにならないといけないと思ってね」
「……へえ……」
返す。気のない返事のようだけど、これでもかなり感心してるのである。
「尤も」、
の反応が楽しいのか、シャムロックはますます笑みを深くした。
内緒だけどね、と前置きして、こう囁く。
「旅から旅でそろそろ路銀が危ないから、おまえも節約術のひとつぐらい覚えろ、って、フォルテさんに云われたのもあるんだよ」
「……さすが、旅から旅への冒険者……」
あたしも少し見習わねば。
「そうだ」
さっき遭遇した覗き魔になりそうな男性を、遠い目になりつつも思わず感心していると、シャムロックがなにやら思いついた様子で手を打った。
「ついでだから、さんの剣もみておいてあげようか?」
「え? いいんですか?」
「君が構わなければ、だけど。――フォルテさんの剣も頼まれてるしね」
それよりも、武器を他人に預けるのは平気かい?
そう、やわらかい笑顔で、傍らに置いてあるもう一本の剣を示しつつ訊かれる。
さてそうなると、当然のように、の返答は、
「だいじょうぶでっす!」
――であった。
他人も何も、もう、ずっと危地を切り抜けてきた大事な仲間たちだ。
今さら剣を預けるコトに、抵抗を感じるような仲じゃない、とは、思ってる。
どっちかって云うと、預けてる間、身体が軽くなっちゃうのがなんとなく違和感かもしれないけど。
まあ、いざとなれば過去リューグをのした黄金の右腕もあることだし!
どろどろのぐっちょげっちょな奴が襲ってきても殴れるかあんた。
無意識に交わしたノリツッコミはさておいて、剣を、鞘ごと腰のベルトから外す。それを、そのままシャムロックに手渡した。
「フォルテのが終わって、余裕があったらでいいですから」
「ええ」
……
「――って……さん今」
「はい?」
「……いや、なんでも……」
何に驚いたのか、目を丸くして問おうとしていたシャムロックだけど。
訊き返すと、そのまま口篭もって、俯いてしまった。
もしかして、厚意に甘えすぎたかと、ちょっと不安になって覗き込もうとしたけれど、それよりも先に復活したシャムロックが笑顔を作ったおかげで、訊きそびれてしまった。――でもちょっと、まなじり、下がってるような。
だけど、声音は変わらず穏やか。
「手持ちが不安なら、シオンさんに何か借りていったらどうかな?」
この間の特訓大会、なかなか上手に使いこなしていたみたいだから。
「あ……はい。ありがとうございます!」
「……」
一も二もなくその提案にうなずいたへ、とうのシャムロック自身が、どこか落ち着かない視線を向けていた。
「シャムロックさん?」
「……あ、ええと、さん」
「はい?」
「その……」
「はい」
良い子の心得その15。相手のお話はちゃんと聞きましょう。
だけど今回は、話すほうがどうにもこうにも、上手くことばに出来ないようだ。
せめて欠片でも口にしてくれれば、だって推理できるんだけど。
「ええと」
とか
「その」
とかだけじゃあ辛い。無理。
……テレパシーの特訓でもしてみようか今度。
そのままの状態が続くこと、しばし。
どうにかに伝えようと頑張ってみたのだけれど、やはり、シャムロックにそれは無理な相談だったらしい。
諦めて何とか場をつくろい、笑って送り出した後。
「……」
手にしたの剣を眺め、シャムロックは、はあ、と、それは大きなため息をついたのだった。
「こういうときばかりは、フォルテさんの突っ走りぶりがうらやましいな……」
「なァにが羨ましいって〜?」
「う、うわあ!?」
誰もいないと思ってつぶやいたのに、急に背後から声をかけられ、飛び上がる。
振り返った先には、まあ声から予想はついていたが――フォルテの姿。
だがシャムロックは、信じられないものを見たような顔になって、ごくんと唾を飲み込んだ。
「……」
頭からつま先までびしゃびしゃ、水まみれ。
しかも額にはでっかいたんこぶ。
頬には紅葉が左右にくっきり。
「……何をなさっていたんですか……?」
「ふっ……今回は姉妹の絆に完敗ってところだな」
答えになってない答えをくれる先輩を見て、シャムロックは、先ほどうらやましいと思った自分を深く反省したのであった。
地味でもいい、まっとうに生きよう。
決意する後輩を見ていたフォルテが、
「ところで」
にやり、と、口の端を持ち上げる。
じぃっと自分の手元を見る彼の視線に、何かと思ってその先を追えば……
そこには、先ほど預かったばかりのの剣。
「――――こっ! これは別にその! さっき通りかかられたのでついでにとっっ!!」
「ほーう? 優しいねえシャムロックちゃ〜ん?」
「わっ、私は別にそんなつもりは!」
「ほうほうほう。どれどれ、人生の先輩が君のこれからについて、じーっくりレクチャーしてやろうじゃないか」
「結構です!!」
「なぁに遠慮すんな。オレに任せれば女の一人や二人今夜にでもベッドインだぜ!!」
「ですから私はそういう気持ちでさんのことを見ているわけでは! 単にあの方と同じくらいの年であったなと思うとつい目が行くとか溌剌していて微笑ましいなとかご自由だったらああしていたのか、――と、か……」
「……ほう?」
「と――……あ。」
「ほほほほーう」
「――い! いうわけでは! けっして!!」
【楽しいおもちゃを発見しました♪】と云わんばかりのフォルテの笑顔を前にして、失言に気づくもときすでに遅し。
「ほーほほほほーう」
「人の話を聞いてくださ……っ!!」
――その後。
しばらくして、庭を通りかかったエルジンが、沈没しているシャムロックを発見して救助活動に尽力したそうだ。
……が、果たしてそこで何があったのか、救出された当人は、黙して語らなかったらしい。