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サイジェントにて トリスたちが、メルギトスを倒したという報をもって、サイジェントに帰ってきたのは二日前。 一行はルヴァイドの怪我が治り次第、王都に帰る予定ではあったが。 今なお彼の傷が癒えていないこと、 フラットの仲間たちが引き止めたこと、 などなどを理由に、フラットの孤児院は未だに大所帯のままだった。 「イオスさん待ってくださいっ!!」 すたすたすたすた、廊下を歩いていく金髪の青年。 ぱたぱたぱたぱた、それを追いかける黒髪の少女。 歩いているのを小走りに追いかけているのだから、すぐに追いつきそうなものなのに、実際その差は縮まらない。 「きゃっ」 ぽすんっ その追いかけていた相手が急に立ち止まったものだから、アヤは思いっきり背中に顔をぶつけてしまった。 「だいじょうぶか?」 ほんのちょっと、いたわるような声が降ってくる。 見上げると視界に入る、淡い金の髪、整った容貌。 ただ、ちょっと顔色が悪い。 「それは、わたしのセリフです」 冷やしたタオルを手にもったまま、アヤは抗議の声をあげる。 「お願いですから、ちゃんとベッドで寝ていてください。 このままじゃ、ルヴァイドさんが元気になっても貴方が倒れてしまいますよ?」 「自分の体調くらい、自分で判るよ」 そっけなく云って、また歩き出す。 「あ、待ってくださ――」 ぽすんっ 「あぅ……」 くすくす。 二度も同じことをやらなくてもいいだろうに。 振ってきたのは笑い声。 「……イオスさん……」 涙目で見上げて、軽く睨む。 「ただの看病疲れなんですから、一日休んでくだされば、明日には元気になれますって云ってるでしょう?」 怪我を負って、眠ったままのルヴァイドを、イオスは昼夜問わず献身的に看病してきた。 リプレたちも尽力したらしいが、イオスは夜もろくに眠らず付き添っていたらしい。 シオンの診立てで、近日中には意識も戻ると診察されたあと、それまでの疲れが一気にきたのだろう。 あろうことか、熱を出しているのである。 なのに本人は知らん顔で、ルヴァイドが起きたときのために何やかやと動き回っている。 ……さすがに、アヤたちも見かねて、せめて一日休むように勧めているのだが…… 結果はこの始末。 聞く耳まったくもっちゃいない。 「君こそ、僕にかまってないで彼らみたいに遊びに出ればいいじゃないか」 「あのですねー……」 放っておけないと思うから、朝から追いかけまわして休むように云っているのに。 見かけは華奢、でも意志はとても頑固なデグレアの騎士を前に、アヤは途方に暮れる。 トリスたちは、『イオスはああだから(ルヴァイド信者だと云いたいらしい)』とまったくあっさりしていたものだが。 今日もなにやら、サイジェント見物に出かけたらしい。 もっとも、目当ては町の外でパッフェルと一緒にアイテム発掘だそうだ。 それはいい。 第一、自分より彼を知っているトリスたちが気にしていないのだ。 アヤも彼らのように割り切って、自分のしごとをすればいいのだろうけど…… ソル曰く『元祖お人よし』なアヤとしては、そこまで割り切れないのだ。 ……すたすたすた 「あ、イオスさんっ」 いつの間にか歩き出していたイオスに気づき、はっとして、また追いかける。 その鬼ごっこを、なんだか不機嫌そうに見ている人間がふたり。 誓約者を『お人よし』と云い切った護界召喚師ことソル。 同じく誓約者を『アネゴ』と慕う格闘少年ジンガ。 アヤをそれぞれに好いている彼らとしては、彼女がイオスにかかりっきりなのが気に食わないのだった。 「イオス……だっけ?」 とうとう、ソルがイオスを呼んだ。 今度はこっちか、と少々うんざりした顔で振り返ったイオスの目にうつったのは、 それはもう爽やかな、背後にどす黒いオーラの見えるソルの笑顔。(怖) 「ヒポスかタマス呼んで、眠らせてやろうか?(にっこり)」 マテ 召喚術にはさほど詳しくないイオスだが、それが無理矢理眠らされるものであることは知っていた。 てゆーかおまえ霊属性と機属性以外使えんだろが 根性でなんとかするさ できるんかい 「遠慮する」 冷や汗をにじませてとりあえず辞退すると、その向かい側で牛乳を飲んでいたジンガが口を開いた。 「俺っちが運ぼうか?(同じくにっこり)」 物扱いか なにやらばきべきとこぶしを鳴らしている少年に、不穏なものを覚えるイオス。 「けっこうだ」 「だったら、素直に寝ててくれ。病人があまり動き回るものじゃないだろ」 表向きだけは親切そうに、ソルが云った。 本音としては、 おまえばっかりアヤに心配されてんじゃねーよ なのだが。 「僕は病人じゃない」 まったく自覚の無いセリフをはくイオス。 顔色が悪い、目がぼうっとしている、足取りがおぼつかない。 これでよく、具合が悪くないとか云えるものである。 「……もぉ……」 かわいらしく頬をふくらませて、アヤが眉根を寄せた。 それを見てくらっときたのが、この空間に約二名。 そんなことは知らぬ存ぜぬの彼女は、困ったようにイオスを見上げる。 黒水晶の瞳に真正面から見つめられて、イオスも、さすがに我を張りすぎたかと反省した。 心配してくれる人間が居るというのはありがたいことなのだから ちょっとはその厚意に甘えてみようかと思った瞬間。 ふくれたままのアヤが、口を開いた。 「寝てくださらないと、パラ・ダリオさん呼んで無理矢理お布団に押し込んじゃいますよ?」 「「「まて。」」」 見事に三人合唱。 病人にさらにダメージ与えてどうするよ (パラ・ダリオは麻痺+ダメージ) 「イオスさんMDF低そうですから、きっと効くと思うんです♪」 笑顔で云うな 「……アネゴ、それはさすがにきついんじゃないか?」 苦笑しながらジンガが諌める。 「だって、イオスさん、ご自分がふらふらなの判ってらっしゃらないんですもの。 でしたら多少実力行使しても」 誓約者に実力発揮されたら死ねるぞ 「……それもそうだな」 同意するな護界召喚師 「だけどパラ・ダリオはどうかと思うぞ。 無理矢理麻痺っていうのは……ダメージ行くのはしょうがないとして」 先に無理矢理眠らせようとしたのは誰だ しかも病人へのダメージ追加を『しょうがない』と云いきってるし 何やら云いあっているソルとアヤの向こう側から、じっと自分を見るジンガの視線にイオスは気づいた。 その目ははっきり語っている―― 今のうちに云うコト聞いておかねーと、どうなっても知らねーぞ(汗) と。 横から聞こえてくる、誓約者と護界召喚師の会話―― それはすでに、アシュタルだのレヴァティーンだのばりばり攻撃系の召喚獣に移行していた。 「………………」 さきほどまでは感じなかった寒気が、背中に這い上がってくるのを感じてイオスは身震いした。 それが、体調不良の自覚がやっとわいてきたのか、 それともまったく別の原因によるものなのか、 ……なんにしてもその後イオスがすぐさま、自分からベッドに入ったのは云うまでもない。 教訓:誓約者と調律者は怒らすな。(あと護界召喚師と融機人と護衛獣) ▼おしまい▼ |