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幼子の夜 夜にひとりでいるのは、あまり好きじゃなかった 小さい頃は、頻繁に兄弟子のベッドにもぐりこんでは怒られた 最後に根負けして、結局腕に包んでくれたのは、ネスだったけど だから、夜は人肌が傍にないとちょっと寂しかった 最近はひとりで寝るのにも慣れてきていたはずだけど 彼がきてからはまた、幼い頃に戻ったような感じがする 「バルレル〜」 一緒に寝ようよー 「あのなああぁぁぁ」 ベッドから手を伸ばし、隣に寝ているバルレルの、布団をぐいぐい引っ張って。 相手も布団をひっつかんで抵抗しているけど、トリスは知ってる。 普段はなんだかんだケンカもするけど、彼女の護衛獣は、この願いだけは必ず聞いてくれること。 「だーっ! 判ったよ!!」 「わーい♪」 暗闇の中、バルレルがベッドから上身だけ起こしたのを見て取って。 おいでおいでと布団を持ち上げ、手招きする。 はぁ、とため息がきこえ、小さく、影絵にしか見えないバルレルの肩が上下したのはこの際無視。 ぎしっとベッドが小さくきしみ、かかる体重がひとりぶん増えたコトを知らせる。 傍に感じるぬくもり。 腕を伸ばして、その身体を抱き寄せる。 「あったかーい……」 「テメェ、人のコト湯たんぽかなんかと勘違いしてねーか?」 「湯たんぽは生きてないもーん」 「生きてりゃ湯たんぽでもいいのかよ」 むっとした口調のバルレルの問いに、見えないだろうけど笑みを浮かべて。 「やだ」 バルレルだからいいんじゃない 「ならよし」 偉そうな口調に、眠いのも忘れて噴出した。 普段ならそのままツッコミが入りそうなものだが、軽いでこぴん一発で済まされたところを見ると、 今日のバルレルはかなり眠いのかもしれない。 そういえば、夕方の稽古、いつもより沢山やったんだっけ…… 最後には、迎えに来たアメルに回復魔法をかけてもらわなければ、家にも帰り着けないほどだったのだ。 バルレル相手の稽古だと、全力でぶつかっていけて。 バルレルも遠慮会釈なくかかってきてくれる。 オレとオマエは、対等だからな 不意に、いつかバルレルが云ったことばを思い出す。 メルギトスを倒す前……デグレアで、ガレアノがトリスの血識を奪えとほのめかしたときの。 それが無性に嬉しかったことを、覚えてる。 すぅすぅと、かわいらしい寝息を立てだしたトリスを見て、バルレルはまたため息をついた。 「対等なのはいいんだけどよ……」 オマエ、オレを男だとちゃんと認識してんだろーな? とてもそうは思えない。 殆ど毎晩、彼にくっつかなければ眠れない、というのは男性としてというより保護者として見られてるんじゃないだろうかと考えてしまう。 保護者はアイツだけでじゅーぶんだろーが トリスとバルレルが一緒の部屋で寝ることにあまりいい顔をしない、彼女の兄弟子を思い浮かべる。 もっとも、ふたりがこうしてひとつ布団で寝ていることまでは知らないはずだ。 ネスティが起こしにくる前に、バルレルはとっととベッドを抜け出してしまうから。 あれこれ云われるのはごめんである。 そのうち嫌でも、云われる事態を招きそうな気がするが。 「とっとと認識しねぇと襲うぞ? この鈍感」 きわどいセリフとともに、額に唇かすらせて。 それでも、今のこの関係はなかなか嫌いではないものだから。 バルレルもそのまま、睡魔に身を委ねた。 もしも、バルレルの夜目が利いたなら。 寝ているはずのトリスが真っ赤になったのが、見て取れたかもしれない。 夜にひとりでいるのは、あまり好きじゃなかった 小さい頃は、頻繁に兄弟子のベッドにもぐりこんでは怒られた 最後に根負けして、結局腕に包んでくれたのは、ネスだったけど だから、夜は人肌が傍にないとちょっと寂しかった 最近また、こども返りしたみたいに、隣にぬくもりがないと眠れない でもそれは 君だからなんだよ? |