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続・がんばれ炎の英雄

注:このお話はヒューゴ→クリス前提の、すげぇくだらないギャグですらない駄文かもしれません。
このカップリングがダメな方、もしくは読んだ後魂抜けたくない方は読み進めないほうが吉でございます。
あげくに今回、ヒューゴがやけにサムイこと云ってくれます。ロミジュリ風味(ぇ


「なんで?」
「いや、私に訊かれても困る」

 すっかり演劇にハマってしまった炎の英雄は、今日も配役決めに勤しんでいた。

「なんでおれはジュリエット役やれるのに、クリスさんはロミオやれないんだろう・・・」
 配役可能な人一覧を見ながら、渋い顔でヒューゴがぶつくさ云っている。
 クリスはそれを静観しつつ、出口の位置と自分の距離とヒューゴの障害をシミュレートしている。
 そこにヒューゴが顔をあげ、つと、クリスに向かって口を開いた。
「あ、云っておくけど逃げようとしても無駄だから」
 っていうかそっちの出口から出ると、命が危ないよ。
「・・・今度は何をしたんだ、おまえは・・・」
 冷や汗浮かべて見返してくるクリスに対するヒューゴの表情は、ご機嫌笑顔。
 そりゃ、好きな異性と一緒にいて、しかもふたりきりで、ご機嫌にならない奴はいるまい。
 だが、この状況に持ち込まれるまでに積み上げられた数々の犠牲を、我々は心に刻んでおかなければならないのである。



  ――劇場から少し離れた廊下――

「・・・・・・俺はまだ未熟なのか・・・・・・」
「うぅむ、鎧で動きが制限されるのが問題だな、ヒューゴ殿は素早いから」
 ぶすぶすと黒煙をあげながら、廊下にへたばっているボルス。
 壁によりかかって、ボルスに比べればあまり黒コゲてはいない鎧の煤をはたいているパーシヴァル。
 さりげにボルスを盾にしたなどと、口が裂けてもばらせまい。
「なんの!!!」
 がばぁ!! と、勢いよくボルスが起き上がる。
 何を、と見上げたパーシヴァルに、烈火の騎士は語気荒く宣言した。
「俺は行くぞ! クリスさまをいつまでもあんなガキの好きにさせておけるか!!」
 云いきるなり、身をひるがえしてダッシュ。
「あ、ボルス・・・」
 片手をあげてパーシヴァルが制しようとしたものの、一寸遅かった。

  ちゅどーーーーーーん

「・・・ヒューゴ殿が、ばくだんたまご(特製)を仕掛けていったんだが、そのあたりの廊下」
 そりゃあもうみっしりと、隙間なく。
 空でも飛ばなきゃ通れないくらい。
「それを先に云え・・・・・・ッ」
 ぱたり。
「逝ったか・・・」
 パーシヴァル、黙祷。



「なあ、ヒューゴ」
「何?」
「今廊下のほうで、何かが爆発するような音がしなかったか?」
「ああ、それはおれたちの未来への祝福の花火だよ」
「・・・・・・・・・・・・」
 もはや何も云えないクリス。
 つーか、これじゃボルスは浮かばれないだろう。



  ――1階ロビー、階段傍――

「おやおや、レオ殿ロラン殿、どうなさったのですか」
 倒れ伏しているふたりの第一発見者は、図書館からの帰りらしいサロメだった。
 劇場前まで行けば同じように真っ黒コゲになっている仲間ふたりを見れただろうが、運命はそこまで親切ではなかったらしい。
「・・・これが、ふたり楽しくコサックダンスを踊った後に見えるか?」
 頑丈さの勝利か、もしくは魔法抵抗力の勝利か。
 地奇星地猛星コンビよりは被害の少ないらしいふたりは、持参していたおくすりを一気に飲み干す。
 ようやく人心地ついたレオとロランを見て、サロメは劇場の方に視線を移した。
「……まあ、だいたい想像はついておりますが」
 どうせ我らが炎の英雄殿が、うちの銀の乙女を独り占めするときに起こった戦いの名残なんでしょうけど。
 身も蓋もない解説に、がっくり脱力するふたり。
「・・・その様子では、どうやら敗北を喫されたようですね」
「あれに勝てというほうが無理だ! ライドオンした挙句にTクリティカル連発しおって!!」
 怒鳴りながら、レオが自慢の大斧を床に突き立てた。
 あまりに力を入れすぎたせいか、ビキィ! と音を立てて床がひび割れる。
『・・・・・・あ。』
 時が止まった。
「・・・・・・・・・・・・お城・・・・・・壊しましたね・・・・・・?」
「ひいいいいいいぃぃぃぃぃいぃぃぃ!!??!?!?」
「アイク殿……いつの間にレオ殿の背後に……」
 蒼白になって後ずさったレオには負けるが、こちらも心なし顔色をなくしたサロメがつぶやいた。
 けれど、アイクはひとつ小さく頷いたのみで(何に頷いたのだろう)、再びレオに向き直る。
 そそそと詰め寄るその姿に、冷静沈着が信条のロランでさえ顔をひきつらせた。
「・・・・・・・・・ヒューゴ様から・・・・・・・・・・・・言伝を預かっております・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「な、なんと?」
 返事も出来ずにあえいでいるレオに代わってロランが問えば、

「・・・・・・・・・・・・・・・万一この事態が訪れたときの城の修理代は・・・・・・・・・各人のポケットマネーから出すように・・・・・・・・・・・・・・・と」
 けっしてクリス様に迷惑はかけるなと。

 沈黙。そして。

「あいつがいちばん迷惑かけとるだろうがーーーーーーーーーー!!!!!!」
「・・・・・・相思相愛だからいいんだそうですが・・・・・・・・・・・・」

 どこがだどこが。
 そうツッコミたくても、先ほど劇場前から響いた爆音による嫌な予感のせいで、身動き出来ない3人だった。



  ――地下2階――

「うわああああん、どうして僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんですかあああああ」
「すまんな、鉄頭予備軍の少年。我らもヒューゴを怒らせたくはない」
 鉄格子をガシャガシャ云わせて半泣きのルイスを、閉じ込める片棒をかついだデュパが気のない様子で宥めている。
「どうしたんだ!? 事件の匂いがするぞ!!」
 どうやら騒ぎを聞きつけたらしいキッドが、わくわくした顔でこちらに走り寄ってきた。
「ああ! キッドさん助けてください! デュパさんが僕をここに閉じ込めて出してくれないんです!」
「なんだって!? これは――殺人事件の証拠隠滅!!??」
 すかさず赤いアイマスクを装着し、事件解決への意気込みを見せるキッド。
 だが、殺人犯にされそうなデュパは実に平然とつぶやいた。

「よけいな手を出せば、おまえがダイイングメッセージを残す羽目になるぞ」

 そのとき、3人の脳裏には『炎』と書かれた血文字の横で果てているキッドの映像が浮かんだとか。

「はっ! どこかで、事件が僕を呼んでいる!!」

 しばしの沈黙ののち、わざとらしくキッドが叫んだ。
「キッドさん!? 僕を見捨てるんですかーーーー!? 事件はココで起きてるんですよ!?」
「何を云ってるんだ! めったに体験できないリザードクランの人とのインタラクティブコミュニケーションの機会じゃないか存分に楽しみたまえ!!」
「うむ。なかなか賢いな、探偵の少年よ」
「探偵は正義の味方じゃないんですかーーーー!!」
「はっはっは、探偵には処世術も必要なんだよルイス君」
「うわあああああああああん! クリスさまーーーーーーーー!!!!!」

 がしゃがしゃがしゃがしゃがしゃ!!!!



「……なんだか、地下が騒がしいみたいだが……行かなくていいのか?」
 城内のことも一応おまえの管轄だろう?
「クリスさん、酒は飲まないんだね」
 そういうヒューゴの前にはミルク、クリスの前には紅茶が鎮座している。
「ああ、酒はどうもあの苦味がな・・・・・ってそうじゃなくて」
「おれは一族の儀式のときには飲むけど、騎士団はそういうのないの?」
「ヒューゴ。人の話を聞いているか?」
「聴いてるよ。酒の苦いのがだめなんだよね?」
「いや、そこじゃなくて」
「で、クリスさん、酒は全然駄目? 酔うのが早くて気持ち悪くなる?」
 頬杖ついて、真っ直ぐにクリスを眺める青緑の眼は、これ以上話をそらすなと云っていた。
 むしろそらすなと云いたいのは、クリスのほうであるのだが。
 まあ、大したことでもあるまいと自分を納得させ、銀の乙女は小さく頷いた。
「……あまり飲んだことはないからよく判らないが、たぶん酒に弱いわけではないと思う。父は強かったらしいからな」
 私は父親似の部分があるし……と、そう云うクリスを眺めるヒューゴの表情は切なげだった。
「あ、いや、父のコトは気にするな。あの人は納得して逝ったんだと」
 思うから――ちょっと慌ててクリスがそう云い終わる前に。
 はあ、と、視線を伏せたヒューゴのため息が先にこぼれる。
「なんだ・・・酔わせて夜這い計画は無理か・・・」
「待て貴様。」
「え?」
 カチャリ。
 こんなときでも持ち歩いている剣を抜き放ち、流れるような動きで切っ先を突きつけ――
 ハッとして、クリスは表情を凍りつかせた。

 フィードバックする、炎の夜。
 向かってきた、ヒューゴの友である少年をこの剣で斬った。記憶。

 だけど。ヒューゴはちょっと目を見張り、しょうがないなと云いたげに口の端を上げて、
「危ないよ?」
 ただ一言、そう告げただけ。

 こんな真似したら周囲が大騒ぎになりそうなものだが、もともと酒場は人払いをされていた挙句にナディールは自分の世界にひたって出てこないし(出てきて現実を見たくないのかもしれないが)、アンヌは諦めきった顔で新しいカクテルのブレンドを考えていた。
 そして剣を向けられた当人であるヒューゴは別に驚きも慌てもせずに、指先で切っ先を軽くそらす。
「ていうか、それはかなりごめんこうむりたいなあ」

 第一、今おれたち、真の紋章持ちなの忘れてない?

 持ち主に強大な力を与えた挙句に不老のオプションまでついてくる真の紋章。
 27のそれのうち、この場に炎と水が揃っている。
 雷は、たぶんこの城のどこかにいると思われる。
 土も、おそらくどっかで朗らかに犬と戯れていると思われる。

「それに、クリスさんはおれを斬ったりはしないだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」

 にっこり。

 陰ひとつない笑顔で告げられたその一言に、クリスの表情が苦々しい、けれど哀しいものになる。
 その表情を隠そうとも、特に取り繕おうともせずに、再び剣は鞘に収められた。
「クリス=ライトフェローさん」
「・・・なんだ?」
 再び席についたものの、視線をそらしてあわせようとしないゼクセン騎士団長の顔を、カラヤの次期族長候補は両手でがっしと包み込んだ。
 そのまま、向きを変えさせる。
 普通なら首がヤな音を立てるはずだが、よほど注意したのかそんな兆候も見られなかった。

「『あなたがその名を捨てなくても、おれがこの名を捨てなくても、おれは今このとき、幾千にも幾万にもご機嫌です』よ?」

「・・・・・・・・・・・・」

 少年らしくはきはきと喋る、いつものヒューゴからはあまり想像出来ない、ひどく柔らかな響きと笑顔。
 そのことばを聞かされ、その表情を目の当たりにした、実は純情なクリスは当然、

 ぼふ。

 頭から湯気を大量出現させ、一瞬にして状態異常・茹でダコ(ひたすらおたおたして前後不覚)になったのである。

「――――――・・・・・・っっ」

 しばらく視線をお魚にして、何か云おうと頑張ってはみたものの。
 結局芳しいものも見つからず、顔を伏せてしまったクリスだったけれど。
「・・・・・・うわ・・・・・・」
 ふと降ってきたヒューゴのつぶやきに、ちらり、視線を上げてそちらを見て。
「・・・どうした?」
 呆気にとられて、まじまじと炎の英雄を見つめたのだった。
 褐色の肌の上からでも判るくらい、ヒューゴの頬は紅潮している。
 それはつい今までのクリスと同じほどか、もしくはそれ以上に。
 クリスが見ていることに気づくと、ヒューゴはそれまで頬に添えていた手を放して、自分の顔を覆ってしまった。
「・・・・・・ヒューゴ?」
「・・・てっきりどつかれると思ったのに・・・」
 呼びかけに返ってきたのは、答えと云えるのか云えないのか、微妙なことば。
「悪かったな、乱暴な女で」
 むっとしてクリスはそう云ったけれど。

「だって、クリスさん、すごくかわいいし」

 続けて云われたヒューゴのそのセリフに、また。
 ぼふ、と、状態異常復活の事態に陥ったのだった。

「だっ、なっ、だからおまえはどうしてそういうセリフを恥ずかしげもなく!!」
 それでも頑張ってことばをつむいでみたものの、ヒューゴも今度は、手を顔から外して笑う。
「だって本当のことだよ。っていうかクリスさん、免疫なかったんだ・・・こういうのはあの騎士たちに云われ慣れてると思ったのに」
「・・・そんなセリフを素面で云えるのは、パーシヴァルだけだ」
「ふーん・・・そう。パーシヴァル、今度の集団戦闘で前線送り決定」
「待て。だから私の部下を勝手に」
「炎の英雄権限」
「それ以前に彼らは私の部下でだな!」
「でもゼクセン騎士団は炎の運び手と同盟を組んだ。そして俺はそのリーダーである炎の英雄。イコール、パーシヴァルはおれの部下。イコール前線送り」
「なんでそうなる!?」
「クリスさんはおれのだから」
「誰がいつおまえのものになった!」
「クリスさんとおれが、ブラス城で最初に逢ったとき」
「ぶつかっただけだろうが! しかもそれはルイスと――」
「おれはあのとき運命を感じたんだっ!」
「私はそんなもん感じてないぞ!!」
 第一おまえ、私を憎んでるんじゃないのか!?

 その一言は。
 あの炎の夜、親友を斬られた苦い記憶を、ヒューゴに呼び起こさせてしまったようだった。
 一転して沈み込んだ表情になった少年を見て、クリスも、さすがに今のは云いすぎたかと自省して。
「・・・すまない・・・」
 考えが足りなかった、と、続けようとしたのだけれど。

「憎悪と愛情は表裏一体ってことで!」(笑顔)

 だってどっちも、相手のことを強く思うっていうのに変わりはないし。

 一旦伏せた顔を上げ、朗らかに云いきった炎の英雄を真正面から見る羽目になったクリスはというと。
「・・・・・・もう私、おうちに帰りたい・・・・・・」
「だめ。」
 本気で突っ伏した、涙ながらのつぶやきも、綺麗に却下されたのだった。




 どかーん!
「ぐっ・・・なんの、俺はこれくらいでは・・・!」
「水の紋章、『優しさの雫』よ――」
 サアアアァァァ・・・・・・
「助かった、パーシヴァル。よし、次はこちら側から・・・!!」
 ちゅどどどどかーーーーん!!!
「・・・な・・・・・・・・・なんの・・・・・・これくらい・・・」
 よたよたよた。
「・・・もうやめておかないか、ボルス」
 いいかげん回復させてやるのも疲れるんだが。


「・・・・・・・・・・・・それで・・・・・・修理代はしめて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・このくらいですが・・・・・・・・・」
「判った判ったわかったから傍に寄るな顔を近づけるなっていうかおぬし息をしとらんではないか!」
「・・・・・・いいえ・・・・・・・・・・・・気のせいですよきっと・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「――――――――――――」
「ど、どうしたんですレオ殿!?」
「・・・気絶しておられる・・・いったい・・・」
「・・・・・・・・・・・・失礼な方ですねえ・・・・・・」
「どうされたのです、アイク殿」
「・・・・せっかく・・・・・・・緊張をほぐそうと、笑ってさしあげたのに・・・・・・・・・・・・・・」
 よけい怖いわ。


 がしゃがしゃがしゃがしゃがしゃ!!
「だから出してくださいよーーーーーーーーー!」
「我らは、トカゲの黒焼きになんぞされたくないのだ。我慢しろ」
「・・・いくらヒューゴさんでも、そこまで外道なことは・・・・・・」
「しないと云いきれるか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 その沈黙の理由が知りたい。


 今日も今日とて、平和なビュッデヒュッケ城と炎の英雄、ゼクセン騎士団・誉れある六騎士の皆さんであった。



「やあ、今日ものどかですねえ」(真の土の紋章所有者曰く)
「・・・どこがだ。」(真の雷の紋章所有者曰く)


■BACK■



お客さーん、ストーブと湯たんぽと綿入れお持ちしましたー(笑)
いや、前回あまりにもアレだったので、今度ちょっと甘くしてみようと頑張ったんですが。
頑張ったんですが......やっぱり突っ走るヒューゴ。振り回されるクリス。
でも、ルルを殺したという憎しみを越え(てるのか?)るまでは、やっぱり葛藤もあったハズ。
だからこそ、このヒューゴがいるのです!(待ちなさい)

そこらへん書いてみたいなーと思いつつ。
真面目な展開になるだろうなーと思いつつ。
なんかコレもギャグになっちまいそうで、ちょっと怖い今日この頃。

とりあえず、今回の犠牲者に黙祷!(笑)