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オレが目を覚ましたときには、もう、ふたりは並んで歩いてた。 遺跡から引き取られて、オレはルウからいろんな話を聞いた。 オレもルウも、眠っていた期間はそう変わらない。 だけど、ほんの何年かだけ、ルウはオレより早く目を覚ました。 その分。 喜びも哀しみも、ルウはオレより知っている。 いろんな話を聞いた。 たいてい話すのは、カローナって街での、デュープリズムにまつわる話。 楽しい人たちが住んでるんだとか、 ファンシーな魔法使いや、怪焔竜がご近所にいるんだとか、 もうひとりの兄に逢ったこととか、 創造主であるヴァレンをぶっ飛ばしたとか、 ・・・いろいろ。 そのなかに、決まって出てくる名前があった。 ミント。 元気で元気で元気で元気で、台風が何個かまとまって来たって吹き飛ばしそうな奴なんだって。 どういう奴なんだよ? って訊いて、 東天王国の王女様だよ って云われたときには、耳を疑った。 マジで女? しかも王女? うん。 どんなたくましい奴なんだ、と、実はトンデモナイ想像してた。 ……本人に云ったら、きっと半殺しにされそうな。 で。遊びに来たわけだ。 ミントが。うちに。 妹のマヤ王女から、オレの話を聞いて見に来たらしい。 その第一印象。ちっちゃい。 オレもルウも、クレアより背が低いから、実はちょっと気にしてたんだけど。 ミントは、それよりちっちゃかった。ほんの少し。 夕焼けみたいな髪の色してて、焔みたいな目の色してて。 風でも吹いたら倒れそうな細っこい身体のくせして、飛び蹴りの威力は殺人級。 その次の印象。元気だ。 ルウのことばは間違ってなかった。 うん、本当に台風どころか天変地異が起こったって吹き飛ばしそうだ。 で、当のミントが初めてオレを見て云ったセリフがすごかった。 「へー。あんたがルウの弟? やっぱ見事に髪おっ立ってるわねー」 ……ヴァレンの人形とか、デュープリズムとか。 云うことは他にあるだろがって感じだ。 ちなみに、爆笑したら飛び蹴りが来た。 オレたち生半可なことじゃ死なないらしいけど、命の危険を感じたぞ、あれは。 時折、ミントはうちに遊びに来る。 国にいても退屈なんだそうだ。 ミントが来るといい意味でも悪い意味でも賑やかになるし、オレもルウも結構心待ちにしてた。 見てて飽きないんだよな。 表情くるくる変わるし、目を離したら次どこから現れるか判らないし。 油断してると蹴られるし。 で、気がついた。 ミントの隣にルウがいて、ルウの隣にミントがいる。 例えば、ルウが何か失敗して落ち込んでる。 ミントがその背中をどつく。 例えば、ミントが何かやらかして大騒ぎになる。 ルウが横からフォローする。 「……ずるいよなあ」 オレもルウも、眠っていた期間はそう変わらない。 だけど、ほんの何年かだけ、ルウはオレより早く目を覚ました。 その分。 ルウは、オレより先にミントに逢った。 別に、オレが先に目を覚ましたからってミントに逢えた保証はない。 そもそも。 ヴァレンの使命をがっちり覚えてたオレは、ルウがいなきゃ素直に使命に従ってたはずだ。 でも、 「いいな……」 オレが目を覚ましたときには、もう、ふたりは並んで歩いてた。 「ルネス!」 エフレシュムに向かおうと、駆け出したミントとルウ。 オレは、柵に寄りかかってふたりを見送ってた。 「ルネスも行きたいなら、行ってもいいのよ?」 クレアはそう云ったけど、辞退して。 さすがに、クレアを一人で残していくのも悪いよなって思ったし。 何より、並んでるふたりの間に入るっていうのに、ちょっと躊躇った。 でも。 「ルネス!」 駆け出そうとした矢先、ミントが振り返って。 ――オレの名前を呼んだんだ。 「あたしたちは先に行くけどさ! あんたも後からゆっくり、クレアさんと一緒に来なさいよ!」 あたしが世界を征服する歴史的瞬間の目撃者は、多いほうがいいわ! 「……ミント……」 ルウが、しょうがないなぁってふうに笑って。 「・・・おいおい」 オレは、何云えばいいのやらさっぱりで。 「ミントちゃんったら……」 クレアは、何故か微笑ましくミントを見守ってる感じで。 オレは、ちらりとクレアを見上げた。 そしたら、やっぱりクレアは微笑んで。 「行ってらっしゃい、ルネス。私は後から追いつくわ」 ……オレもよく判らないオレの気持ちを、なんだか、クレアは知ってるみたいだ。 頷いて、柵に手をかけた。 地面を蹴って、一気に飛び越える。 「オレも行く!」 ルウがびっくりしてクレアを見たけれど、すぐに微笑んだ。 ミントも、同じように目を丸くしてたけれど、すぐに、 「よっしゃ! あたしの家来としていい心がけよ!」 「いつから家来になったんだよ!」 「たった今!!」 バカみたいな会話をして、オレはミントの隣に立つ。 反対の隣には、ルウが立ってる。 「行くわよ家来ども!」 ノリノリで、ミントが一喝して走り出す。 「だから家来じゃないって!」 「勝手に決めるなよ!」 応えて、オレたちも走り出した。 オレが目を覚ましたときには、もう、ふたりは並んで歩いてた。 でも、 「負けないからな」 「それは僕の台詞」 こうやってわいわいやりながらみんなで歩くのも、今は悪くないと思う。 |