創作


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きみの みる ゆめ



はじめは、ね

ただ、外を見たかっただけだったの


あなたは、お人形さん。
魂宿した、わたしの器。

骸王は告げた

その魂は、妾のななつのそれのうちで、いちばん透明なものであるから
器に邪なるものが入り込まぬようにする、ただそれだけのものであるから

情を移すな

でもそんなこと、できると思う?
優しくて怖い、人とは違う、鬼の長。


人形は云った

わたしは、君に外を見せるためにつくられたんだから
それだけのために、四大元素、凝らせて、生まれたんだから

だから利用していいんだよ

できるわけない。
だって。
こんなにきれいな、あなたの瞳。


目の覚めるような、鮮やかな、どこまでも澄んだ、朱金の瞳。



わたしは話した

外に出るのも楽しいけれど、あなたの目を見ているほうが好き。
あなたが笑ってくれるだけで、すごくすごくうれしいの。

だから傍にいて


夢を見ていたのかしら?

どうして、兄さまが、禁断であるはずの『人形』づくりに手を出したのか、それを考えていれば。
どうして、骸王が、魂のひとつをわざわざ犠牲にしたのか、それを思っていれば。

禁忌と犠牲。

外を見る前に、大陸ごと終焉を迎えるかわいそうなお姫様のために



伝説よりも、とおい昔、一夜にして海に沈んだその大陸の

名を、大和という





……夢を見る
遠い懐かしい、緑の瞳の少女が微笑う、ゆめ きおく?

双子のようにそっくりで(彼女を媒につくられたのだから、当たり前)
いつもいっしょにいた(彼女の魂の器としてなのだから、当たり前)
でも彼女はもういない(大陸とともに海で眠っているから)
そして自分は生きている(そう云えるの?)

――人形

紅い血の代わりに、身体を満たすのは世界がくれる生命の息吹。
人と変わらぬぬくもりのくせに、内にはいったい何がある?

食物も。睡眠も。水も。
人と同じように摂取欲を持つけれど、仮にとらなくったって在りつづけることができるくせに。

夢を見る
こんな自分が見る夢は、果たして夢と云えるのだろうか

「翡翠……」
歴史の書物に記される、大和の最後の姫君の、名前をそっとつぶやいて、朱金の瞳が伏せられる。
「……いや、アルスリーア、か」
姫君の真名。
もう誰も、自分以外に呼ぶ者はいない、大和の姫の隠された真名。


「アル」
そしてこれは、人形の名前。

声に応えて身を起こし、少し先から駆けてくる、旅の相棒たちを見る。
紅き鬼と蒼き鬼。
骸王が、人形にあずけた子鬼たち。


夜空に浮かぶ星の位置、変わるほどの時を経て

朱金の瞳、見上げていたはずの子鬼たち、ふと気がつけば見下ろす方


焔朱、紫紺、
「行こうか」


微笑む朱金のその瞳、刹那に浮かんですぐ消えた、哀しみに似た感情を。
見逃さなかった鬼ふたり。

だけど、にっこり微笑んで。

「うん、行こう」
「行きますか」


見ないふりはしない。だけど、わざわざ告げはしない。
だって君は強いから。
滅ばぬ身体と生命抱いて、星々が、少しずつ、位置をずらしたと同じ時間。
君は笑って生きてきたから。

ただ、傍にいる。
君が笑って生きていくよう。


アル

旅の間に間にふと繰り返し 思い出すのは姫君のことば

ずっと あなたは 微笑っていてね

あなたがあなたで あるように



……夢を見る
大海の優しきかいなに抱かれて


大空の下 大地の上 微笑って歩く あなたの姿



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