創作


■BACK■

......空と海の黄金......



 森のなかを歩く。
 木々の下を歩く。
 踏みしだくたびにかすかな音を立てる下草。
 時折、風が頭上の葉っぱを揺する音。

 一歩前を歩く人は、こちらを振り返らないまま歩く。
 わたしはその後ろを、一定の速さで歩く。
 常に同じ距離を、ふたり、保って歩きつづける。

 その人は何も云わない。
 わたしも話しかけたりはしない。
 それでも、ふたり、同じペースで歩きつづける。

 深い深い緑に包まれた世界に、時折、陽の光が零れ落ちている場所。
 辿り着くまでは光の柱が在り、辿り着けばそこは光の広がる空間。

 やわらかな風が頬を撫でていった。

 もう森の出口が近い証明。


 最後の茂みを、その人が両手でかきわけて先に出る。
 かきわけたそれが元に戻る前に、わたしも続いて森を抜けた。

 緑に覆われた世界は、一転して、青と白の世界に変ずる。


 目の前には果てなく広がる空。丸みを帯びた水平線。
 そして、黄金。

 空と海の境に、きらきらと、黄金が輝く。
 まるで今まさに、海から生まれ空へと旅立とうとするように。
 真っ直ぐ上に伸びる光は空を照らし、波に砕ける光はその表面を鮮やかに彩る。
 空と海の境に、きらきらと、黄金が輝く。
 まるで、空と海が混ざろうと触れ合っているように。
 水平線の縁に沿って、黄金は空と海の境を喪失させている。

 聴こえてくるのは、寄せて返す波の音。たまに吹く風の音。


 そして、わたしの名を呼ぶ声がした。

 その声を発した人が、振り返った。
 背にした黄金が逆光となり、まるでシルエット。まるで儚い幻影。
 けれどそうではない証拠に、はっきりとしたその人の声が、わたしの耳を心地好く刺激する。

「行こう」

 空と海の溶け合う場所で、差し出された手のひらに、わたしは、わたしの手を預けた。




■BACK■




それは夢だったのか、それとも。
たまに、もといしょっちゅうかな。こんなこと考えます。
空と海の境界で朝陽がのぼる光景を、いつか見たような。
それは溶け合って産まれた黄金に思えたような。

曖昧な、記憶なのか幻想なのか......脳内産物。