創作 |
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......空と海の黄金...... 森のなかを歩く。 木々の下を歩く。 踏みしだくたびにかすかな音を立てる下草。 時折、風が頭上の葉っぱを揺する音。 一歩前を歩く人は、こちらを振り返らないまま歩く。 わたしはその後ろを、一定の速さで歩く。 常に同じ距離を、ふたり、保って歩きつづける。 その人は何も云わない。 わたしも話しかけたりはしない。 それでも、ふたり、同じペースで歩きつづける。 深い深い緑に包まれた世界に、時折、陽の光が零れ落ちている場所。 辿り着くまでは光の柱が在り、辿り着けばそこは光の広がる空間。 やわらかな風が頬を撫でていった。 もう森の出口が近い証明。 最後の茂みを、その人が両手でかきわけて先に出る。 かきわけたそれが元に戻る前に、わたしも続いて森を抜けた。 緑に覆われた世界は、一転して、青と白の世界に変ずる。 目の前には果てなく広がる空。丸みを帯びた水平線。 そして、黄金。 空と海の境に、きらきらと、黄金が輝く。 まるで今まさに、海から生まれ空へと旅立とうとするように。 真っ直ぐ上に伸びる光は空を照らし、波に砕ける光はその表面を鮮やかに彩る。 空と海の境に、きらきらと、黄金が輝く。 まるで、空と海が混ざろうと触れ合っているように。 水平線の縁に沿って、黄金は空と海の境を喪失させている。 聴こえてくるのは、寄せて返す波の音。たまに吹く風の音。 そして、わたしの名を呼ぶ声がした。 その声を発した人が、振り返った。 背にした黄金が逆光となり、まるでシルエット。まるで儚い幻影。 けれどそうではない証拠に、はっきりとしたその人の声が、わたしの耳を心地好く刺激する。 「行こう」 空と海の溶け合う場所で、差し出された手のひらに、わたしは、わたしの手を預けた。 |
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