創作 |
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誰が云ったか。 皆が云ったか。 ――――人類が生物の頂点なのだと、そんな世迷言を。 誰が……云ったのか。 壊 れ た 世 界 「愚かなり」 「……否定しませんがね」 家の近所の神社には、黒い天狗が住んでいる。 ばあちゃんの友達だというその天狗は、小さい頃両親を亡くしてこっちに引き取られてきた私の面倒を、何かにつけてみてくれた。 勉強に精を出した冬を抜け、無事に高校生となった今も、天狗は茶のみ仲間として付き合ってくれる。 が、今、境内にある木の前に立つ私たちの手には、茶も茶菓子もない。そもそも、そんなんが持てるわけないほどに薄汚れている。 目の前の木の根元には、不自然なくらい土が盛り上がっていた。 これでも一生懸命穴掘ったんだけど、特に運動部で活躍してるわけでもない女子高生の腕ではこれが精一杯だったのだ。 ……情けなや。 「脅かすものがおらねばどこまでも横暴になってよいなど、誰がさだめたか」 横に立つ天狗は憤っている。――無理もない。 「……あいつら本人でしょうよ」 怒りは等しく、人と呼ばれるモノすべてに。 だから私にも突き刺さる。 「――――愚か」 救われぬ、と、云っているように聞こえた。 だけど、この地面の中に眠るものは救われてほしい。 泥にまみれた手を合わせる。ああ、だけど私の祈りは届くのか。何処に誰に、そして何の為にかも判らない祈りなど。 ……自分のためか。 そうならば、どこまでも身勝手。 でもそうせずにはいられない。 だって、私もイキモノだ。 ……ねえ。 呼吸できる大気をつくったのは誰。 食物を育てる大地をくれるのは誰。 渇きを潤す水はどこから来る。 ――――――壊されても、汚されても。 何も云わずに、私たちを容してくれているのは――――誰だった? 「届くまい」 辛辣に、天狗が告げた。 そして、 「だが、無駄ではあるまいよ」 ほんの少しだけ、労わってくれた。 私は膝をついて、盛り上がった土の前にしゃがみこんだ。 「……おやすみ」 壊れてしまったひとつの世界、その永久の眠りを邪魔しないように、そっと囁いた。 |
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