【そして忘れられた島で】

- 幼馴染 -



 風にさらさら流れる黒い髪。
 丸っこいながらも、幼さというよりは愛嬌を感じさせる漆黒の瞳。
 鮮やかな紅の衣装はふわふわやわらかなフレアスカートのワンピース。アクセントには桃色のレースと黄色のリボン。
 そんな彼女の名前はアヤ。――樋口綾。
 現代の奇跡こと誓約者のひとりであり、と同郷・幼馴染みのお姉さんだ。

 そんな彼女に幼馴染み歴でこそちょっと負けてはいるものの、明るい茶色の髪と焦げ茶の双眸、襟元あったかそうな黄土色がかった上着をまとう彼の名は、ハヤトという。新堂勇人。
 現職はアヤと同じであり、かつ、出身も同様だ。

 でもってここにを加えた三人を、“幼馴染み戦隊ジンガイン”と人は呼ぶ。
「――――呼ぶな」


 だいたいジンガインって人外のもじりだろう。
 とか、どうでもいいナレーションにどうでもいいツッコミがどこかで炸裂しているのを余所に、彼らは、昼下がりの野っ原ど真ん中で仰向けになって寝転んでいた。

「……いいお天気ですねえ」
「いい天気だなあ」

 紡がれる声も非常にゆっくり、まったり、のんびり。

「――サイジェントものんびりしてるんじゃないの?」

 問いかける声も、間延び気味。

「さすがに辺境だけあって、聖王都ほどがやがやとはしてないけどさ」
「何かとその、わたしたち、顔が売れちゃってますから……」

 あーなるほどー。
 そのあたりの事情をリアルタイムで見てきたため、納得するのに時間は要らない。
 誓約者がどうのだなんてことは知らずとも、“不思議な力を持っていて”“騎士団やオプテュスにも引けをとらず”“あのマーン三兄弟さえ認めているらしい”人物となれば、そりゃ顔も知られてるだろうってものだ。

 召喚されるまでごく普通の高校生だった彼らの気質は、そう簡単に変わるものでもない。
 注目されりゃ気になるし、頼りにされればやっぱりついつい出張ってしまう。

 サイジェントの街は大好きだけど、それだけで済まない気苦労もいろいろあるんだろう。

「――その点、この島って知ってても気にしない人ばかりだし」
「気構えが要らないっていうの、開放感なんですよ」

「そうだねー」

 の聖王都での生活も、そうだ。彼らには及ぶべくもないが、蒼の派閥で世話になっているということに加えて、傀儡戦争で駆けずり回ってた姿を記憶してる人たちは割と多い。視線を感じないといえば嘘になる。

「でもさー」
「うん」
「アヤ姉ちゃんもハヤト兄ちゃんも、ここ終わったら帰るのサイジェントなんでしょ」

「ええ」
「ああ」

 いつしか閉じた瞼の上を、そよ風が優しく撫でていく。

ちゃんは?」

 この島から帰ったらどうするんですか?
 言外の問いに、
「――うん」
 頷いた。

「あたしは、これが終わったら、たぶん――――」

 幼馴染みたちのささやかな会話が繰り広げられる野原の上を、
 ざあ、
 風が一際強く吹きぬけた。

「……そっか」
ちゃんには似合うかもしれないですね」

 巻き上げられた草に混じって頭上に降ってきた手のひらを、
「ありがと」
 ふたつ意味あるお礼のことばを返しながら、受け入れた。