【そして忘れられた島で】

- 野望を抱け? -



 果てしなき蒼・ウィスタリアス。
 不滅の炎・フォイアルディア。

 おまけ、名も無き白輝・――――

「名前つけない? シャイニングホワイトってどう?」
「……なんかやだ」

 別件・誓約の剣。

「このペンダントも?」
「材質は同じだしな、含んでいいだろ」


 ずらり。壮観。
 もし一斉にこれらが揮われれば、悪魔王だろうがディエルゴだろうが問答無用にはっ倒せそうな魔剣を無造作に並べた一行は、しげしげと、それらを眺めて息をついた。
「不思議ですねえ」
 アヤが、はんなりと微笑む。
「時間も場所も違うのに――これ、全部、ウィゼルさんが手がけられたんですよね」
「だねー」
 同意するナツミの傍らでは、ハヤトとトウヤが腕組みなどしてこう云っている。
「やっぱあのじーさん、只者じゃなかったな」
「僕たちに剣を渡した時点で、そうだろう。――の剣にしても」
 サイジェントでウィゼルから託された剣は、ちゃんとに手渡された。そんでそのきっかけは、二十年前のこの島であり、かつ、渡された当人だというのがまた数奇。
 ま、そのあたりは説明済みであるわけだが。
 ただ、未だ解消されてない疑問はまだ存在している。
 がこうして、曰く持ちの人間を集めたのは――最初は蒼組と炎組だけの予定だったのだが、気づけば誓約者組まで同席しているのは何故なのだろう――、それを訊くためだったりした。
「それで」、
 努めて軽い調子で切り出す。
「ウィゼルさん、いつこの島に来てたの? イスラにしたって、どうやって魔剣の持ち主じゃなくなったのよ」
 この島はそうお気軽に来れる場所ではないし、魔剣と魂の結びつきは尋常な手段では解けぬほどに強固だ。
 かつて砕けた紅の暴君、その欠片がよみがえり、また、新しい継承者を得たその経緯を問いたいと思うのは、にしてみれば当然のことだった。

 うん、と、ひとつ。最初に頷いたのはレックスだ。
「そうだなあ、この島の外と中の時間がつりあってるかが判らないけど……」
 ひいふうみい。指折り数え。
「だいたい、十年くらい前かな?」
「そうですね。サローネもまだ現役だった頃です」
 師のことばに頷いて、ウィル。
「ああ、お世話役さん」
 はサローネに逢ったことこそないが、ある意味彼女も発端のひとつであったことを考えると、印象深い相手ではある。娘さんはマローネだっけ。
 たしかにそのころでしたわね、と。これはベルフラウだ。傍らのアリーゼを振り返り、確認を求めた彼女へ返る応えは、上下の頷き。
 それから、当時島にいた者たちの視線が、一名に集中した。
 それまでは黙ってやりとりを見ていたその一名ことイスラが、「うん」と黒髪を揺らす。
「ウィゼルさんが最後にここへ来たときだよね」
「――最後?」
「そうだぜ。メイメイが連れてきてくれたんだけどさ、この島に関るのは二度目、そして最後になるだろうって」
 心なし落とした声のトーンは、口調を真似ているつもりだろうか。ナップのことばに首を傾げたを余所に、何故か、アヤたちが得心顔になっていたりする。
「あたしたちに逢った頃って、もう随分おじいちゃんだったしねー」
「十年でどれだけ変わるか判らないけど、やっぱキツかったんじゃないか?」
 ……現在のウィゼルをレックスたちが見たら、どんな反応を見せるだろうか。
「もう、無色の派閥は抜けたって云ってたよ」
 ちょっぴり考え込んだをどうとったのか、イスラがそう付け加える。
「――そうなんだ」
 それでは、サイジェントの裏路地で老体を蝕んでいた黒い影に、もう侵蝕されてしまっている状態だったのだろうか。
 オルドレイクが、そういったことにタイムラグを置くとは考え辛い。だがレックスたちが何も云わないところを見るに、どうやら、ウィゼルは見事それを隠しおおせていたのだとは量れる。
 実に、尊敬すべき相手だと、はしみじみ痛感した。
 勇者エトランジュにされた恨みはさておいて。


 ――ウィゼル・カリバーン。伝説級の魔剣鍛冶師にして稀代の剣豪。
 とかいう厳つい二つ名をふたつも背負ったごっついおっちゃん。
 彼が、この忘れられた島を再び訪れたのは、遡って十年程前のことだという。
 それは、突然だったというわけではない。

「元々、僕と紅の暴君の結びつきは、糸一本あるかないかってくらいまで弱まってたんだ」

 碧の賢帝を砕かれたレックスとアティは、修繕されて生まれ変わった果てしなき蒼とごく僅か残っていたそれを手繰り寄せて、新たな絆を結ぶに至った。
 同じように砕かれた紅の暴君は、だが、修繕する者が存在しない。
 故に、剣と継承者のつながりはその時点で、あってなきがごとしだったのだ。
「でもですね、剣だって、ずっと砕かれたままの姿じゃかわいそうですよね?」
「って、そのときも先生たちが云い出したんです」
「核識だって、もう動くなんか出来ないだろうっていうのもありましたし」
 神出鬼没な行商を営んでいたメイメイがそれを小耳に挟み、それじゃあちょっと補修人を連れてくるわと。
 それでよっこら、連れられてやってきたらしい。
 相変わらずの離れ業だ――が、病魔の存在に気づかなかったわけでもなかろうにメイメイがなんら処置をしなかったらしいことを考えると、彼女もやはり万能ではないということなのだろう。
 ともあれ、それで紅の暴君は、晴れて生まれ変わる機会を得たとのことだった。

「それで問題になったのが、その継承者だったんだ」
「僕はもう、そんな特別な力要らないって思ってたから――」

 つながりが薄いならそれでいい。
 力揮うこともないならそれがいい。
 もう自分は、自分としての何か以上を欲しようとは思わない。
 本来は心優しい少年であったイスラのことばはそのまま受け入れられ、そうしてメイメイが可能だと提言したため、生まれ変わる魔剣の主を、新たに選び直すことになった。
 いやまあ選ばないなら選ばないでもいいのだが、それだといつ何時どんな不貞の輩がまかり間違って手にしないとも限らないし。復活させる以上は、こう――ちょっとむずがゆいが、幸せになれる使い方をする者の手に委ねたい、と。そう、果てしなき蒼の継承者と、島の民たちの意見は一致。
 でもって一も二もなく候補にあがったのが、レックスとアティのもっとも間近にいて成長した、マルティーニのきょうだいたち。

「で、見てのとおりオレが継いだ」

 さらりと告げたナップのことばに違和感を感じ、は首を傾げる。
「へ? ナップ君だけ?」
「そうですよ」
 だから“君”はやめてくれっつってんのにさ、なんてむくれるナップの傍らで、ウィルがこくりと頷いた。
「レックスたちみたいに共有してるんじゃないの?」
「いいえ」
 魔剣に関った全員が首を左右に振って、予想を否定する。
「私たちは、先生たちのように心の在り方が近くはありませんので」
「でもそんなこと云ったら、イスラとナップ君だってそんな似てると思えないんだけど……」
 どちらかというと、そう、ウィルならば類似点も見つけ易いのだが。性別の問題を抜きにすれば、アリーゼでもいい。
「そのへんは、オレもよく判らないんだけどさ」
 浮かぶ疑問を霧散させるよーなことを、平然とぬかす継承者本人。
「メイメイがオレたち全員に剣を触れさせて、それでコイツはオレを選んだ。だから、オレが継承者になったんだ」
「……おかげで、マルティーニ家の継承話が必然的に僕へまわる羽目になったんです」
 恨みがましげにつぶやくウィルの肩を、まあまあ、と、宥めるようにアリーゼが叩く。
 それはそうだ。
 そんな訳判らないモノを持った(もしかしたら歳のとり方も違う)人物を、いくら長男とはいえ、次代の当主に据えるわけにもいくまい。マルティーニ家は、ごくごく一般的な生活を営んでいるのだから。
「だから、なんでかって云われたら困るんだけどさ」
 表情を改めたナップが、そう話し出す。
「あの事件の後、イスラの話、聞いたんだ」
 と。
「世継ぎって云われる重みとか、全部じゃないけど判るかもしれないって思った」
 オレも長男だから、あの頃よりもっと小さいとき、ウィルたちより勉強時間が多くて遊ぶ時間が少なくてさ。
 その反動で、あんなやんちゃっ子になったんだろうか。そう茶化すと、彼は照れたように笑った。
「それで、オレもまだガキでさ。そんなこと云われたって出来るわけねーだろって思ってたっていうか……乗せられる期待の重さとか、それが出来なかったときの失望とかさ、わりと露骨に感じてた」
「子供のほうが、むしろ、そういったことには敏感だもんな」
「私たちも、ちょっと感じてはいたんですけど……だから、軍学校に行くって最初に云いだしたのも、ナップだったんですよ」
 世継ぎとか。
 長男とか。
 期待も失望も蹴飛ばして、離れて、何か。何か――何かを。ただ自分が自分として生きていける何かを。
 探したかった――のかもしれない。
「こういう話聞くとね」、ナップのことばが終わるのを待って、イスラが苦笑い。「ああ、負けて当然だったなって未だに思うよ」
 逃避ではなく進むために、別の道を求めた心。
 純粋な賞賛に弱いあたり変わってないらしいナップは、ちょっと視線を泳がせて「あんただって今は大丈夫なんだろ」と早口に応酬した。
 それから、「とにかく」と話を引き戻す。
「不滅の炎に関しちゃ、そういうわけだ」
 他に質問は?
「はい、はいはーい!」
 一巡する視線を、元気よく挙手したナツミがひきつける。
「アヤから聞いたんだけど、えっと抜剣? すると変身するってホント?」
「あ、はい。本当ですよ」
 核識とは切り離されたはずなんですけど、力の放出に一番適した形態になるみたいですね。
 にこりと微笑んで答えるアティは、だが、次の瞬間弟たちと一緒にのけぞることになる。
「ね、ね、見せてもらっちゃったり出来る?」
 ――戦隊ものに憧れる子供のように瞳きらきら輝かせ迫るナツミを、目の当たりにして。
 その驚きの一部には、仮にも誓約者である彼女のミーハーちっくな振る舞いへのものもあるのだろう。
 そんな誓約者様を引きとめたのは、同じ誓約者であるトウヤだった。
「無理を云わないように。そういった事情のあるものを、簡単に見せられるわけもないだろう」
「ちえー」
 期待度合いの割に、ナツミはあっさり引き下がる。そのへんは、判ってるらしい――というか、自分たちにも似たり寄ったりの事情があるから判らざるを得ないのだろう。
 改めて、は、この場に集った一行を眺めた。
 アヤ、ナツミ、ハヤト、トウヤ――誓約者。
 レックス、アティ、ナップ――継承者。
 残るウィルやベルフラウ、アリーゼ、イスラもまた、浅くないかかわりをもつ。
 そうして彼らの振るう魔剣。
 おまけに、この場にこそいないものの、他とは比ぶるべくもない魔力を誇った一族の末裔であるマグナとトリスだっている。
 さらにとんでもないことに、元守護者だとか一度世界を滅ぼしかけた悪魔王だとかまで滞在してる始末である。
 んでもってその他一般人なはずの皆さんにしたって、かなりの強豪ぞろいときた。
 いや、なんていうか――これは、あれだ。ここにいる皆を総動員したら、もしかしたら。

「……世界征服、出来たりして」

 思わず考えがだだ漏れたを、一行、ぎょっとして振り返る。と同時、すぱーん! と、誰も座していなかった部分の床板が跳ね上がった。
「HAHAHAHAHA、さんがお望みであればこのレイム、世界のひとつやふたつやみっつやよっつ、いつでも征服して差し上げますともッ☆」
「「うわあぁぁっ!?」」
 あ。耐性のない人たちが思いっきりヒいた。
 ずざざざ。後ずさる数名を余所に、床下から現れた――これでも床を突き抜けてたりしないだけ、マシだと云えるのだが――銀髪の男性ことレイムは、ご丁寧に、吹っ飛ばした床板をいそいそと元の場所に合わせ直す。
 ……おや珍しい。
 その背中を見つめていたは、例の彼女がツッコミに出てこないことに気がついた。
 首を傾げたのが判ったか、床板を戻し終えたレイムは「彼女ですか?」と、にこやかにこちらを振り返る。
「親友と積もる話があるそうなので、私が席を外したんです」
「だからって床下に潜って何をしてるんですかっ!」
「あはは、何をって、そりゃあ盗聴ですよ」
「朗らかに笑って云うことですか、それ――!!」
「……レイムさんにとっちゃそういうことなんだよ」
 うんうん。
 腕組みしたが生ぬるくつぶやけば、ちょっぴし遠い目になった誓約者さんたちも頷いた。
 それを見た継承者及び島在住のご一同は、レイムにますます奇異の目を向ける。
 ああいいなあ――新鮮だ、この反応。
 良くも悪くも馴染んでしまった己にほんのちょっぴり涙して、は、レイムの奇行を追及しようとして無駄な努力を展開しそうな雰囲気を、余所へ向けることにした。
「あの、レイムさん。世界征服って冗談ですから」
「――おや。そうなんですか?」
 あからさまに“つまらない”と顔に描いて落胆するレイムを見て、やっぱ真に受けてたのかこのひとはと思ったが、口にはしない。
「でも」、
 そうして、レイムは何か面白がるような表情をつくると、ふいっと視線を動かした。
「征服するには充分な力と――理由が揃っているじゃありませんか。その気になれば一日にして、世界は貴方がたに陥落しますよ」
 そのまなざしが真っ直ぐ射抜くは、ハヤトたち。
 ――聖王国・旧王国・帝国。威を競う三国がそれぞれ担ぐは、“エルゴの王の血をひく末裔”たりえる王族だ。その真偽の程や血の濃さについて論じるのはまったく別件となるので、ここではやめておこう。
 エルゴの王は誓約者。
 戦乱に荒れるリィンバウムを救った伝説。
 いつつの界と誓約した者――それがエルゴの王である。
 で。
 いるわけだ。
 ここに二代目の誓約者が。
 その力は疑い様もなく、まこと彼らがそれを望むなら、証明とて幾らでも出来る。
 が戯れに思い、レイムが楽しげにそそのかす“世界征服”は――それこそ現実と成り得るだけの可能性が、ここに充分揃っているのだ。さっき考えたように、この島に現在いる全員が動けば、バックアップもばっちりだし。
 だがしょせん、
「冗談がすぎるぜ」
 それは、戯れだからこそ。
 よりは明るい焦げ茶の髪を揺らして、ハヤトが笑った。
「俺たちは、そういう立派な器じゃないよ」
「そもそも面倒だ。オルドレイクにしても、そのディエルゴにしても……征服したあとの手間を、少しでも考えたことがあるのかな」
 そのあたり、未だに判らないんだけれど。
「……面倒、ですか?」
 きょとん。首を傾げるアティ。
 ディエルゴの方は超現象だからどうだかですが、と前置きして、トウヤはそちらへと向き直る。
「征服というのは、たとえば極一部の存在が“すべてを管理する”ということですよね。リィンバウムを制圧しきったとして、そこまでは力でどうにでもなるでしょう。ですが、その後はどうしてもある程度の秩序が必要となり、結果として政を行なわなければならなくなる。支配という形を欲する以上は自分たちだけで実施するのでしょうが、果たして世界隅々に目を行き渡らせることが可能なのか? すぐに手は足りなくなります、だからといって支配下の者は力で圧されることに大小なりと不満はあるはずですから、仮に引き入れたとして即要職を任せるわけにもいきません。不穏分子を減らす最短手段として密告制度もありますが、これは秩序破壊にも繋がる悪手ですね。どちらにせよ征服などというものは世界全体に対して仕掛けるべきものではなく、裏切る可能性が限りなく低いと断定出来るだけの人数を配置する余裕のある環境下において行なうのが――――」
「…………」
「おーい。せんせい」
「先生、起・き・て・く・だ・さ・いー」
「ははははは、ダメダメですねえこの教師」
「先生たちのこと悪く云うのはよしてよ」
 目の前で船漕ぎはじめたレックスとアティを無表情に見つめるトウヤの肩を、ぽん、とナツミが叩いて首を左右に振った。
 ナップたちが教師ふたりを揺り動かしてる傍らでは、イスラがむっとした表情でレイムに抗議している。
 それでもってはというと、実は危うくレックスたちの二の舞になりそうだった頭を慌ててスッキリさせたところだったりした。
「……はっ!」
 なんとも幸せそうな表情で、頭を前後にかっくんかっくんさせていたレックスとアティが、そこでちょうど目を覚ます。
 ふたりは数度またたきし、不思議そうに周囲を見渡した。
 それから、
「「ご、ごめんなさい!!」」
 やっと状況を思い出したか、床にぶつけそうな勢いで頭を下げ、トウヤに謝罪したのであった。
「どっちが年上だか」
 けらけらとナップが笑う。こういうところは、あの頃から変わってない。
 レイムがいるにしては珍しく――この島での彼は最初から、そう激しい暴走もしてないが。やはり彼女の影響なのか――穏やかな雰囲気のなか、ふと、そんなことを考える。
 それから、何か懐かしそうに不滅の炎を見つめているイスラに気づいて、声をかけた。
「手放したの、もったいなかった?」
「――まさか」
 深い色の瞳を見開いたイスラは、次の瞬間破顔する。
「剣、元気になってくれてよかったって思ったよ。あと、あんな呪縛も消えてよかったっていうのも」
「あー……あれはしんどかったよねー……」
 碧の賢帝と紅の暴君に絡み付いていた、数多の怨念。怨嗟。呪詛。
 喉もと過ぎればなんとやら、薄れてきてはいるものの、それを思って覚える嫌悪は未だ根強いものだ。
「……ですね」
「だなあ……」
 同じモノを味わったアティとレックスも、こちらの会話を耳に挟んで視線を虚空に彷徨わせる。
「呪縛というと、件の遺跡に在った残り滓の?」
「ええ。あれでも随分、目減りしていたとは思いますが」
 こちらでは、経緯をほとんど知らぬレイムが、何となしウィルに尋ねていたり。
 そんなレイムに違和感を覚えるのは、間違っているのだろうか。
 微妙にもぞもぞとした気持ちになりつつ銀髪の彼を見ていると、視線に気づいた相手がふっと振り返り、ばちっ☆と熱烈なウインクをしてくれた。
「ご心配なく。あんな根の浅い執念に、私のン百、ン千年の愛が引けを取るわけありません」
 いや別に勝負させたいわけじゃないし。っていうか、
「……」
 うん。間違ってた。
 違和感ないや。やっぱり。レイムさんはレイムさんだ。
「まあ――つまり、世界征服なんてすべきではないし、する理由もないってことですよね」
 微笑んでやりとりを見守っていたアヤが軽く手を打ち合わせて、総括するようにそう云った。
 ですね。だね。そうだな。
 応えるように、その場の面々も笑いながら同意する。

 ――かくして今日も世界は平和。
 尋常ならぬ力を持ち得る人々は、それをこそ至上と望んで笑い、力使うような日が来ぬことを、ささやかに祈っているのであった。


「ってちょっと待て! あたしは違――う!!」
「そんな剣持ってて何云ってるんですか、おかあさんってば」
「そうそう。は立派に俺たちの側だって」

 ……一般人を自称する誰かさんの抗議は、きっと叶うこともあるまいが。