やっぱりイスラさん萌え。ってなわけで日記から小話第二弾。
......100のお題ネタを考えてたら浮かんだので、そのうちあっちからリンク貼るかも。

前回と同じく、びみょーにネタばれなのかもしれません。




きみのこえ






 君の声以外 要らない



?」
「うん?」

 機界集落ラトリクス――その中心から少し東に行ったところに、リペアセンターはある。
 管理しているのは、看護人形であるクノン。
 看護されているのは、イスラ。

 数日前、海辺に出かけたどっかの誰かが釣り上げた島への漂着者である。


 ようやく面会謝絶の札が外されて、現在見舞いに来ているのは――もとい
 幻獣界集落からもらってきたという果物を、ナイフでしゃりしゃり皮むき中。
 短剣の扱いに慣れているせいか、それとも軍隊のおさんどんをやっていたせいか、手慣れたものである。
 もっとも、イスラはそんなことまで知らないが。


「はいはい?」
 しゃりしゃりしゃり。

「はーい?」
 しゃりしゃりしゃりしゃり……

「だから、はいってば」
 ――しゃり。たんたんたん。
「……何か話して」
「むかーしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」
 たんたんたん。
「それで?」
「おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が、どんぶらこーどんぶらこーと流れてきました」
「桃?」
「果物だよ。美味しいの」
「ふーん」
「はい、切れたよ。口開けてー」
「うん」
 ぱく。しゃり。もぐもぐもぐ。
「桃って、これとは違う?」
「うん。もっと甘くて水気が多いんだ」
 もぐもぐ。ごっくん。
「……話の続き」
「おばあさんは、おじいさんと一緒に食べようと思って、桃を拾っておうちに帰りました。すると、桃が割れて、中から男の赤ん坊が出てきたのです」

 は口を動かしながら手も動かして、再びイスラの口元に果物を持っていく。
 まだ少し億劫そうに、それにかじりつく様子を見守った。

「おじいさんとおばあさんは、桃から生まれた男の子と桃太郎と名付け、育てることにしました。男の子はすくすく育ち、そんなある日、鬼が島という――」
「鬼が島?」
「悪ーい鬼が住んでる島。間違っても、ここのひとたちみたいに親切ぢゃないの」
「シルターンにあるんだ?」
「空想空想」

 イスラの表情が、少しつまらなさそうになる。
 それでもゆっくり腕を伸ばして、果物を差し出したの腕を掴んで、安定させて。それから、串の先のそれにかじりつく。

「……おとぎ話って奴?」
「そうだよ?」
「子ども扱いして……」
「『何か話して』っていうから、浮かんだのを話しただけじゃない」
 何が不満か、あんたは。

の話が聞きたい」
「だから、話してるじゃない」
「君自身の話」
「……激烈却下」

「…………ケチ」
「ケチで結構ですよー、だ」

 あっかんべ。
 舌を出したら、それがおかしかったのか、イスラはくすくす笑った。
 少し斜めになったご機嫌は、それでちょっぴり回復したようだ。

 もう食事はいいということなのか、それまで起こしていた身体をくるりと反転させて、ベッドに突っ伏す。
 顔だけに向けて、毛布の下から腕を伸ばして、裾を掴みなおした。

「じゃあ、おとぎ話でもいいよ。何か話してて」
「……どこまで話したっけ」
「鬼が島が出たとこ」
「あー、そうそう。ある日、都のお姫様が鬼が島の鬼に連れさられてしまったというお触れが――」


 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・


 ……………………



「失礼します」
「あ、クノンさん。お疲れ様ですー」
「いえ、仕事ですから。……ところで、そろそろ戻られた方がよくありませんか。日も暮れそうです」
「いや……それがですねえ」

 云いよどむの答えをすでに判っていたのか、クノンは懐をさぐる。
 取り出だしたるは、ハサミ一丁。

「いやちょっとソレはどうかと」

 クノンの視線が、眠っているイスラの手に握り締められたままの服の裾に向かっていることに気づき、は慌てて辞退した。
 もっとも、クノンはそちらも予想していたらしい。
 改めて問いなおすこともせず、ハサミをしまうと、部屋の外からカートを押して戻ってきた。
「それでは、一応食事を準備しましたので、どうぞお召し上がりください」
 簡易ベッドは後ほどお持ちいたします。
「うう、お世話おかけします」
「……いえ。私も助かっております」
「へ?」
 どう考えても、クノンさんの手をわずらわせてるっぽいんですが?

 疑問符浮かべたに、クノンは小さく首をかしげてみせた。

「あなたと会話されたあとは、格段に患者の容態が安定しております。早期の回復を考えると、毎日でもこうしていただいたほうが覿面なのでしょう……私には理解出来ない、精神的な部分の効果のようですが」

「……さ、さいですか」

 嬉しがっていいのか、戸惑っていいのか、さしものもしばし迷うことになったのだった。
 まあ、おとぎ話程度で気分がよくなってくれるなら、別に毎日きてもいいかな、と思ったことはたしかだったけど。




「いや、その解釈少し違うし」
「あ、やっぱり? そうだよねえ、おとぎ話くらいで元気になるなら、もっと病人減ってるし――」
「違うよ。君の解釈」

 はい?

「僕はおとぎ話じゃくて、君の声聞いてるから落ち着くんだけど」
「……じゃあ、手持ちのおとぎ話、テープレコーダーに吹き込んで置いとこうか?」

 そう云ったら、イスラはがっくりうなだれた。

「嫌だよ、そんなの」
 君が僕の傍にいて、僕に話してくれるんじゃなけりゃ、意味がないよ。
「……我侭太郎」
「いいよ、我侭で。こればっかりは譲る気ないから」

 今はまだ、我侭をきいてくれるから。
 今はまだ、こうしていても許されるから。


  だから、今は、君の声だけ聞いていたい



     君の声以外 要らない



とりあえず、ブラウザバックで戻りましょう。





真面目な話、イスラ話ばっかり頭に浮かんで手に負えません、隊長ー!(誰)