「もーういーくつねーなくてーも、くーりーすーまーすー♪」
デグレアではついぞ聞かない歌を口ずさみつつ、城内を走る少女がひとり。
廊下を抜けて角を曲がって、階段を上ってまた廊下を走って。
ようやく目的地である、自分の養い親の執務室に辿り着いた彼女は、手の中に丸めた紙を確認して、扉を叩いた。
「ルヴァイド様、いますかー?」
部屋の主が返事する前に、扉を開けて中をうかがう。
もっとも、今日は一日決裁書類の整理だと聞いていたからこそ出来るのだけど。
そうしての予想通り、書類整理に勤しんでいたルヴァイドが、机から顔を上げて戸口の方を向いていた。
「どうした?」
ここしばらくは大きな戦いもなく、穏やかな日々のせいだろうか。
養い親の表情が常になく落ち着いているのを見て、もほっと息をつく。
そりゃあ自分たちは軍人だけれど。
でも、出来れば戦いなんて、避けられるなら避けたほうがいいことに、変わりはないのだから。
もう一度うながされて、は室内に入った。
ルヴァイドの前まで歩き、丸めていた紙を、ぱっと広げてみせる。
「企画書持ってきたんですけど」
「……企画書?」
各部隊合同訓練でもするつもりか?
あくまで殺伐としたルヴァイドのことばに、はかぶりを振る。
そうして。
にっこり笑って、云い放った。
「クリスマスパーティしましょうっ!」
「・・・くりすます?」
10ヶ月ほど前のバレンタイン騒ぎを思い出させるような、またしてもひらがな発音のルヴァイド様であった。
季節は冬。白天の節1の月24日、午前。
がデグレアに落ちて2年目とちょっと、イオスがデグレアに身を寄せて1年目とちょっと。
名もなき世界風に云うならば、クリスマス・イヴの朝のことだった。
「――というわけで、今日は黒の旅団でクリスマスパーティやりますっ!!」
「ちょっと待て。クリスマスってなんだ?」
黒の旅団の訓練場に駆け込んだの第一声に、真っ先に出たのはその質問だった。
ちょうど総当たり戦をやっていたせいで、全員がその場に揃っている。
全員と云っても、デグレア軍全体から見れば、極々少数の2ケタ台なのだけれど、その分、団員同士の結束は固い。
それは、少数精鋭を旨とする彼らにとっては何よりの宝だ。
そうしてその彼等はやっぱり共通して、彼らの上官の養い子であるを可愛がっている。
ので、唐突な意味不明発言にも、このような微笑ましい展開が繰り広げられるのであった。
「クリスマスは、25日なの。サンタさんが、良い子にプレゼントを持ってきてくれる日だよ」
でもって、24日の夜にみんなでパーティするのがならわしなの。
「サンタ?」
栗色の髪をした少年兵が、首を傾げる。
そこに、年かさの兵士がどすっと彼の肩を叩きにきた。
「なんだ、おまえもサンタとやらのプレゼントが欲しいのか?」
「お、俺は要りませんよ! もう子供じゃないし!!」
「ははははは、そういうところが子供だっていうんだよ」
「……で、。サンタって?」
朗らかな会話が繰り広げられだした横を抜けて、イオスがつとやってきた。
「おうおう、イオス。おまえさん、がいりゃプレゼントなんて要らんのじゃないか?」
「なっ……!? それはそうだが」
まてや元帝国兵。
やっぱり茶化されているイオスがおかしくて、は声をたてて笑う。
イオスが旅団になじみ始めてやっと数ヶ月。
はじめのうちこそ、他の兵たちといざこざがあったけれど、今ではこんなに打ち解けているのが嬉しい、というのもある。
で、サンタって?
収拾のつかなくなった現場を呆れて見ていた別の兵士が、会話の軌道修正にかかった。
「うん。ほんとはサンタクロースって名前で、赤い服着て白い髭はやしたおじいさんでね? トナカイのひくソリに乗って空飛んで、24日の夜に世界中の良い子たちにプレゼントを配るんだ」
「・・・はっちゃけたジイさんだな」
「というか太っ腹だな」
世界中の子供たちって、何万人いるんだよ、オイ。
ぼそり、兵士たちのツッコミが入る。
が、ご機嫌状態のにとってはそんなもんそよ風程度でしかない。
あはは、と笑って、両手をぱたぱた左右に振って。
「でもここリィンバウムだし、サンタさんはいないと思うんだよね」
「……ま、そうだろうなぁ」
「いたら俺たちだって、知ってるだろうしな」
イオス、帝国はどうだったんだ?
「いや、僕も知らない」
問いに、イオスは首を横に振る。
そうして再び、を見下ろして。
「・・・で、それでどうしてパーティになるんだ?」
「えっとね。あたしの家、毎年パーティしてたの。サンタさんが子供のいる家見つけ易いようにって」
そういうの思い出してたら、これはみんなで是非パーティしなきゃと思って!!
旅団兵たちは、顔を見合わせる。
彼らは知っている。が、この世界に召喚されてやってきたことを。
それまでの生活も何もかも置きっ放しにして、喚び寄せられてしまったのだということを。
……帰る手段など、ないのだということも。
「よし、やるか」
兵のひとりが、ぽん、と手を打ち合わせた。
そのことばにぱぁっと顔を輝かせたを見て、兵たちも心和んだ笑みを浮かべる。
「どうせおまえのことだ。大将の許可はとってるんだろう?」
「うん!」
「ルヴァイド様は、ほんっとうにには甘いよなぁ」
俺たちが云ってたら、絶対却下されてたぜ?
肩をすくめた青年兵士のことばに、何人かが笑い出す。
「――で、? そのルヴァイド様はどうしてるんだ?」
「養鶏場で鶏絞めてると思う」
「・・・・・・」
デグレア軍指揮官に、何やらせとんじゃおまえは。
パーティに使う会場は、ミーティングにもよく使われている多目的ホール。
机と椅子をどかしてしまえば、黒の旅団が全員入ってもまだ余裕のスペースが確保できる。
そこに、買っておいた飾り付けのための道具やら何やら渡して、飾り付け完成図なども渡して(いったいいつの間に、と、呆れられたのは別の話だ)。
はイオスを引き連れて、養鶏場にやってきたのである。
・・・やってきたとたん、目眩を覚えたらしいイオスの健康を、ちょっと心配しつつ。
「ルヴァイド様っ」
名前を呼んで、その人のところに駆け寄った。
「いいところにきたな。粗方終わったぞ」
そう云って、腕まくりして刃物と絞めた鶏を持ったルヴァイドが立ち上がる。
それから、不思議そうに、入り口のところで立ちつくしている部下に目をやって。
「どうした?」
「・・・いえ・・・」
すっかり養鶏場に馴染んでるのはいいんだ、そこまではまだ。
でも。
どうせの趣味なんでしょうけど、胸のところにひよこちゃんポッケのある(しかも返り血が点々とついてる)エプロンはどうにかならないんですか!!
とか考えて拳を震わせているイオスを、とルヴァイドは不思議そうに眺めたのだった。
七面鳥の丸焼きが出来ればいいんだけれど、リィンバウムの食材に、まだは詳しくない。
鶏がいるのを聞いたとき、良かったと安堵したくらいだ。
野菜は食料庫から引っ張り出してきたし、他の材料も大体は旅団の軍用備蓄から使えばいい。
どうせ保管上の問題もあって、数ヶ月使わない食材は日常の食事に使いまわされるのだから。
果物も、果物屋さんが驚くくらい買ってきてもらって。
さて、あとは、料理するばかり――なのだが。
10歳でこの世界にきた人間に、あちらの料理の記憶なんぞ求めても無駄である。
故に。
あやふやなのことばを頼りに、飾り付け途中の旅団兵数人に赤紙発行して、どたばたと調理が開始された。
城の女官さんにでも手伝ってもらえばいいのかもしれないが、彼女たちは、城の人間の食事に毎日てんてこまいだ。
一部のために、手を割いてもらうのはちょっと罪悪感。
「油、お鍋にいっぱい入れて、あたためて……鶏肉は、えーと、塩と胡椒と片栗粉でたしか……」
「かたくりこ? なんだそりゃあ?」
どれか近いの選べ。
と、差し出された、白い粉の入ったいくつかの袋。
中身を指でつまんで、比較的近い手触りを探し出す。
戦時中ならともかく、日常では子供に火を使わせるわけにはいかないという配慮のもと、はメインであるケーキの作成にかかっていた。
これなら、オーブンにかけるとき以外はまず、火に近づく可能性はないからである。
うろ覚えの記憶を引っ張り出しつつ、まず材料を揃えていく。
卵、小麦粉、砂糖、バター……
「・・・ルヴァイド様」
「なんだ?」
血のついたひよこちゃんエプロンは外して、別の黒いエプロンをつけ、三角巾して、左手にボウル、右手に泡だて器を持ったルヴァイドがを振り返る。
ちなみに黒いエプロンは、この場の全員の標準装備と化していた。
街から急遽このために買い集めてきたエプロンを、やっぱり同じようにつけ、同じく三角巾も装備して野菜を刻みながら、イオスはちらりと上官を見、気づかれぬようため息をつく。
……いつから、黒の旅団はクッキング教室まで開催するようになったんだ?
あと数年もすればすっかり染まりきるだろうが、まだイオスにはこれを不可解な光景に思う心が残っていたのである。
そうしてその視線の先では、がルヴァイドに問いかけていた。
「生クリームって、あります? ここ」
「いや、買い置きはないな」
あってたまるか。
大き目の店なら扱っているだろう、とのことばに、はつと視線をめぐらせた。
誰か手の空いている人はいないかな、との視線に、兵士の何人かが立候補しようとしたときだ。
・・・みしッ
かすかに、けれど調理場の全員の耳にたしかに聞こえた。天井の軋む音が。
・・・みしみしっ・・・
不吉な予感とともに沈黙に覆われた調理場のなかで、がきょとんと天井を見上げる。
その横で、ルヴァイドがギッ、と、険しい顔になった。
「レイム! の料理に埃を落とす気か!!」
ピタリ。天井の音が止む。
だが。
『云うにことかいてそれですか!』
イオス含め、旅団兵全員のツッコミが入ったのは、ある意味当然だったのかもしれない。
「いいか、レイム。鼻血は出すな。奇怪な行動にも走るな。今日ばかりは平和に行くぞ」
「そういう貴方が、過剰反応をやめてくださるのでしたら」
「貴様が余計な行動をしなければいいだけの話だ」
「心外ですねぇ。私はただ自分の気持ちに正直に――」
「それが変態だというんだ」
「親馬鹿が何を仰いますか」
バチバチバチバチバチ。
「・・・・・・ルヴァイド様。店を通り過ぎてますが」
赤く黒い淀みのよーな殺気を放ち、周囲の人々がそそくさと避けて歩くその二人連れから、数歩下がった位置で、イオスは後方を指差した。
通りすがりに聞こえたので、と、不審さ全開のことばとともにレイムが調理場の扉から姿を現したことで、買い物は彼に任されることになったのである。
で、レイムだけ使いに出しては何をするか判らんというルヴァイドのことばで、こうして彼共々目付け役としてやってきたわけなのだが。
それを今、イオスは激しく後悔していたり、する。
何せ国内外それなりに名の通った軍の指揮官と、顧問召喚師だ。
その彼らが並んで歩いているというだけで人の目を集めるというのに、あまつさえその周囲の空気がただ事ではない。
しかも目的地が、大衆によく利用されている大手の食料品店というのも異様さに拍車をかけていた。
もし、敵国の間者でも忍び込んでいたら、なんと報告されるんだろうか。
後年、こういったことを某アルバイターにおちょくられる運命など、このときのルヴァイドとイオスには予想もつかなかったのである。
しかしやはり、が大喜びで準備しているイベントをぶち壊しにしたくない気持ちは、ルヴァイドもレイムも同じらしかった。
当然イオスもそうであり、買出しをほっぽりだしてふたりがバトるようなら、身を呈して止める覚悟をしていたため、ちょっとほっとしつつ。
ともあれ、同時刻買い物に出ていた主婦たちの好奇心だらけの視線を集めながら、買出しは無事に終了した。
城への道を戻りながら、ルヴァイドとイオスはことばを交わす。
「――そういえば、そちらの包みは?」
「おまえこそ」
に頼まれた買い物の他に、ルヴァイドとイオスはそれぞれ、小さな包みを手にしていた。
相手に問うまでもなくお互い予想はついていたけれど、一応。
「まあ、サンタとやらにはなれませんが、プレゼントくらいならと思いまして」
「そうだな」
「おや、お二方もですか」
にこやかに割って入ってきたのは、ふたりが故意に意識から除けようとしていた顧問召喚師であった。
「・・・『も』?」
買い物の袋以外何も持っていないレイムを見て、イオスが少し眉宇をひそめる。
何か買っているようには見えなかったが、と、そう告げようとするより先に、レイムは懐に手を差し入れる。
取り出した手には、真っ赤なリボンが握られていた。
にっこりと、レイムは微笑んだ。
ちょうど傍にいた女性が数人、頬を染めてきゃあきゃあと騒ぐ。
「聖なる夜。恋人たちの夜。私は、この身をさんに捧げようと思うのですよ……」
女性たちのように、うっすらと頬を染め、はにかむように微笑んで。
「ええ、やはり生まれたままの姿をさらすのは恥ずかしいのですが、さんに喜んでいただけるのなら……おや、ルヴァイド、どうしました?」
てっきり、なんぞかツッコミが来ると身構えていたらしいレイムだったが。
すすすと距離をとるだけに終わったルヴァイドとイオスを見て、怪訝な顔になる。
――そこに。
「どいたどいたどいたーーーーーーー! ぼっとしてると俺っちが跳ね飛ばすぜーーーーー!!」
ずどどどどどどどどどどどどど!!!
赤い髪に青い額当て、この時期に半ズボンの元気な少年が、アルバイトらしい大八車を引いて全力疾走してきたのである。
自分の世界にひたっていたレイムは、真っ直ぐに自分に突っ込んでくるその少年に気づかなかったのだ。
「あ。」
そして全力疾走していた少年も、微動だにせず道の真ん中に突っ立っている馬鹿がいるとは思わなかったのだろう。
直前まで来ても動かないレイムに、走ることに集中していた少年がやっと気づいたときには、すでに遅く。
「あ。」
ごぎゅるぐどめす……ッ
実に形容し難い音とともに、レイムはお星様と化したのであった。
落ちてきた、レイムの抱えていた荷物を片手で易々とキャッチしたルヴァイドのところに、レイムを跳ね飛ばした少年がやってくる。
勝気そうな顔つきだが、今は眉を八の字にして途方にくれた表情になっていた。
「すいません! 俺っち……!」
「いいや」
必死に謝る少年の肩を、むしろこれ以上ないほど爽やかな笑顔で持ってルヴァイドは叩いてやる。
「よくやった。おまえが俺の軍なら、名誉勲章ものだ」
「……へ?」
予想外のお褒めのことばに、少年は、きょとんと目を丸くしたのだった。
「いいんですか、それで……」
思わずつぶやいたイオスを、けれど、ルヴァイドは真顔で振り返る。
「この場合、俺が直接手を下したわけではないからな」
結果オーライというやつだ。
それ違います、たぶん。
武者修行の途中であり、しばらくデグレアに留まって稼ぐつもりだというその少年に、変態に逆恨みされたくなければ早く発てと、お礼も兼ねて幾ばくかの金銭と食料を渡し。
そうしてルヴァイドとイオスが戻ったときには、料理も飾りつけも殆ど完成しようとしていた。
「おかえりなさーい!」
あれ? レイムさんは?
「奴は星になった」
「……? ?」
たった一言返されたことばに、当然のようにの頭上に疑問符が出現する。
が、同時にルヴァイドとイオスの頭上にも、疑問符が降ってわいたのだった。
「あらおかえりー、ルヴァイドちゃんイオスちゃーん」
「お邪魔していますぞ」
「何を固まっておる?」
ケーキに乗せるのだろう、ザラメを取り出しているビーニャ、割烹着着て料理を運んでいるキュラー、その手伝いをしつつガレアノ。
せっかくレイムが排除できたというのに、その部下がそろいも揃ってそこにいるという現実に、一瞬、ふたりとも認識が追いつかなかったようである。
だが、まあ、しかし。
星になったあの男に比べれば、こちらはまだマシな方でもあるし。
気を取り直したルヴァイドとイオスに渡された買出しの荷を受け取り、がケーキの仕上げに取りかかる。
だがしかし。
「さん、私もデコレーションのお手伝いをしましょうか」
『うわああぁぁ!?』
「あ、レイムさん。おかえりなさい」
にょっきりと床から生えてきたレイムを目撃した旅団兵たちが、ずざぁっと壁際に逃げる。
咄嗟に壁際の大剣に伸びかけた手を、ルヴァイドは必死で押し留めた。
ここで血の雨など降らせたら台無しだということを、養父はよく判っているのだ。
で。
背中から声をかけられたは、当然、レイムの奇行など見ておらず。
お願いします、と、にこやかにクリームの入った絞り袋を手渡し――
「僕がやる」
怒りのあまり硬直して動けないルヴァイドの代わりに前に出たイオスが、すぱっとそれを奪い取った。
「イオス、やりたいの?」
意外ーそういうの好きだったんだー?
また新しい一面を発見して楽しそうなに笑いかけながらも、イオスが思うことはただひとつ。
レイムに料理をさわらせたら、何をされるか判ったもんじゃない。
……で、ある。
「貴方もまだまだ子供だということなのですねぇ」
「ほざけ」
額に青筋を立ててそう云うレイムにガンつけて、イオスはさりげにを背にかばう。
旅団兵が無言の声援を送っていることに、さすがに当人気づいてないけれど。
そうしておいて、絞り袋を握っていざデコレーション。
すでにチョコレートで周囲を塗り固められたケーキの縁にそって、円を描くように白いクリームを乗せていく。
・・・が。
「イオス……もしかして、不器用?」
「・・・・・・」
半分ほど終わった時点でが思わず真顔で訊くくらい、そのクリームの進路はぐにゃぐにゃだった。
「初めてやるんだから、しょうがないだろ……」
絞り袋を片手に持ち、空けた手で顔の半分を覆って、イオスは云う。
そりゃあ、軍人の教育必修過程にケーキのデコレーションなんてもんはない。
「うん、でも、味があっていいよ。頑張れ、イオス」
にっこりそう云うに、けれどイオスは絞り袋を返す。
「いや、もういいよ」
「・・・そう? じゃあ残りはあたしがやるね」
そう云って、なにやら歌いながらがクリームを乗せ始めた。
やっぱりぎこちない手つきだけれど、何度かつくったというだけあって、なかなか綺麗な模様が描かれていく。
調理場にいた兵たちも、飾り付けが終わったとやってきた兵たちも、もともとその場にいたルヴァイド、イオス、それにレイムとキュラーとガレアノとビーニャまで。
わらわらと大勢が覗き込む中、そうして、ケーキは出来上がって。
いざ、パーティのはじまり、である。
クラッカーはないから、乾杯が始まりの合図。
兵士たちも今日ばかりは無礼講と、大騒ぎだ。
いつもなら、そういうことにあまりいい顔をしないルヴァイドも何も云わず、けれど率先して騒ぎに混じるようなことはせず。
「ルヴァイド様、一緒に遊びません?」
「いや、俺はいい」
ホールの中央辺りで、兵士たちがなにやら遊戯に興じていた。
ダーツを投げて、より的の中央に当たれば賞品がもらえるというやつだ。
賞品なんかいつ用意したのかと思ったら、ルヴァイドたちとは別働隊で買い物に出た兵士がいたようだ。
別に大した賞品というわけではないけれど、競い合うこと自体が楽しいんだろう。なかなかの盛り上がりだ。
「あ、イオスが投げますよ」
の示した先では、イオスが正にダーツを投げようとしていて。
ヒュッ、と、空を切る音がこちらまで聞こえそうなほどきれいなフォームで投げられたダーツは、
――タン! と、小気味いい音を立てて的に突き立つ。
「デコレーションは苦手なのに、ああいうのは得意なんだからー」
こちらに気づいたイオスに手を振りながら、が笑う。
「……まあ、そういうものだろう。俺も、料理の飾りつけなどしろと云われても勝手が判らんからな」
空になってしまったのグラスを近くのテーブルに置いて、ルヴァイドは答えた。
その答えがおもしろかったのか、が、また笑う。
「うん、でも、みんな楽しそう」
ドキドキしてたけど、良かったー。
「そうなのか?」
「そうですよー。ルヴァイド様に却下されたらどうしよう、料理失敗したらどうしよう、みんな楽しんでくれなかったらどうしよう、って、いろいろ考えてたんですから!」
「……そんなわけもなかろうに」
小さく苦笑して、ぽん、と、の頭を叩いた。
むしろ、兵たちは心底楽しそうなのだから。
酔ったキュラーの説教に付き合わされている者も数名いるが、まあ、問題なかろう。
酔ったビーニャのダーツの的にされている者も数名いるが、まあ、命が危なくなるようなことはないだろう。
酔ったガレアノが隅っこの壁際で丸まっているが、あれは全然害はない。
と、そこまでを見てとったところで、がきょとんと首を傾げた。
「あれ? ところでレイムさんドコ行ったんでしょう?」
「……いや、俺は知らんぞ?」
本気でそう答え、ルヴァイドもと同じように首を傾げたのである。
まあ、目の前の心の和む情景に、すぐにそれも忘れ去られたが。
翌朝、の部屋にサンタとして登場しようと暖炉と煙突を突貫工事して入り込もうとしたレイムが、煤にまみれた赤いコスチュームで発見されることを、まだ、誰も知らない。
どうでもいいが、あのときどこでサンタの話を聞いていたんだろう。
そんな疑問を持つ人間は、生憎、一人もいなかった。
――何はともあれ、Merry X'mas!