その日の朝は、なんとなく違和感があった。
原因にしばらく思い至らず、顔を洗い身支度を整え、そうして朝食の準備が終わった頃、ようやくそれに気がついた。
がいない。
機会さえあればルヴァイドの部屋にお泊まりに転がり込む少女は、早寝早起きの健康生活を実践している良い子でもあるため、実はルヴァイドよりも早く起きて朝の用意などしてくれているのだ。
だが、今朝に限ってそれがなかった。
別に食事の用意など自分で出来るのだが、不安がむくりと頭をもたげる。
昨夜は元気にしていたのが、もしかして急に風邪をひいたのだろうか。
熱でも出したか?
もしかしてそれをこじらせて肺炎など引き起こしていないだろうか。
目を覚ましたはいいもののベッドから起きられない状態なのではないか?
一晩でそこまでいくか。
とにもかくにもそこまで瞬時に思考したルヴァイドは、ぐるりと身体をひるがえしての眠っているはずの客室へ向かった。
ノックする前に、ふと、なかの気配をうかがう。
もぞもぞ、と、何かが動いているようなそんな気配がしていた。
とりあえず身動きも出来ないような状態ではないのだろうと、安堵して。
それから軽く戸を叩く。
「、入るぞ」
了承の返事がくるだろうと思って、ノブに手をかけた――
瞬間。
「だめーーーーっっ!!!」
切羽詰った少女の叫びが、ルヴァイドの脳天を直撃した。
ドンドンドンドンドン!!
乱暴に叩かれる自室の扉の音に目が覚めた。
ゆうべ遅くまで書類をまとめていたせいもあって、出来ればもう少し眠っていたかったのだが。
何せ久々の休日なのだし、との買い物の約束は午後からだし。
・・・けれど。
「イオス! 起きろ!!」
ドアの前で何やら大声で叫んでいるのが自分の上司とあっては、さすがに出て行かないわけにはいくまい。
これがあの召喚師4人であれば、絶対に無視してやるのだが。
「待ってください! すぐに行きます!」
手早く身支度を整えると、扉を開けた。
その先には、予想通りルヴァイドが立っていて――何があったのやら、えらく焦っているというか焦燥しているというか。
これは、に何かあったのだろうか?
嫌な予感が頭をよぎったイオスの耳に、ルヴァイドのことばが振ってくる。
「が部屋から出てきたがらんのだ! 入ろうとしても大声で止められる始末で、どうしようもない・・・!」
「何があったんです!?」
切羽詰った上官のことばに、イオスもまた、表情を険しくした。
けれど、ルヴァイドは眉をしかめたまま、首を左右に振るだけで。
なんでも部屋に入るのを絶対的に拒否している割には、理由さえも説明しようとしないというのだ。
ただ、ひたすらに拒んでいるばかりなのだという。
病気や何かの類ではないかと思ったが、その問いははっきり否定されたらしい。
のことだから、やせ我慢している可能性もないではなかったが。
「判りました。とにかくの処に」
「ああ」
ひととおり事情を聞いたイオスもまた、に直接理由を訊くためにルヴァイドの部屋へ向かって歩きだした。
宿舎のなかは広いようで狭いが、一介の軍人であるイオスと、それなりの立場にあるルヴァイドの部屋はけっこう遠い。(広いのか狭いのかはっきりしろ)
数分後、イオスはようやく、問題の扉の前に立つことになった。
感覚をこらせば、たしかにが部屋のなかにいる気配はする。
「・・・イオス?」
自分たちがきたのを察したのか、伺いをたてる前にのほうから声をかけてきた。
その声も、いつもどおり。病気をしたというわけでもなさそうだった。
では、何故はこうも頑なに部屋に入られることを拒んでいるのだろうか。
「。どうしたんだ?」
「どうもしない・・・」
問いかけには、身も蓋もない返答が寄越される始末。
ため息をついて、諭しにかかる。
「何があったか知らないが、事情だけでも説明してくれないか? ルヴァイド様も僕も、心配してるんだぞ」
心配している、というそのことばに、中にいるが動揺した気配が伝わってくる。
自分は居候だという自覚がまだあるせいか、そういう部分を盾にされるとめっぽう弱いのは、イオスがと知り合ったときから変わらない。
ルヴァイドはそのようなことを気にする必要はないのだと、再三に云っているのだが。
で、当のルヴァイドは今、イオスの後ろでひじょーに狼狽したお顔を見せていらっしゃる。
あからさまに表情がそれを示しているわけではないのだが、微妙な顔色の悪さとか落ち着かなげに足で刻まれるリズムとか。
とてもじゃないが、他の兵士たちには見せられない姿だ。
・・・こんな父親莫迦に、僕たちの帝国軍は壊滅させられたのか・・・(遠い目)
思ってはいけないことを思ってしまって、一瞬彼岸を眺めたイオスだった。
ルヴァイドの父親莫迦フィルタは取り外し自由で、特に戦闘のときには全然その欠片もないとは判っていても。
まぁ――そのおかげでと逢えたことだし。と、我ながら前向きな思考でもって彼岸から戻ってきてみたり。
「ルヴァイド様・・・」
「なんだ!?」
ようやく応える動きを見せたの声に、ルヴァイドが扉に張り付く。
とてもじゃないが、他の兵士たちには(以下省略)
「あの・・・あのね、ごめんなさい」
まずは謝罪。このへんも、が律儀だと周囲に認識される所以だ。
「気にするな。それで、何があったのだ・・・?」
そのルヴァイドのことばに答えて、の告げたことばは。
聞いたルヴァイドとイオスの頭上に、金タライ出現・直撃させるような衝撃をもたらすに充分なものだった。
「ごめんなさい、あの、ビーニャ呼んできてもらえませんか・・・?」
何故だ。
俺ではなくイオスでもなく、あのいけすかない召喚師軍団の女などでなくては何故いかんのだ。
がそういうのならいくらでも呼びに行ってやるが、平和的に交渉できるほどの余裕があるか?
いや、奴だけならなんとでもなるかもしれんが、仮にあの男がいた日には――
の不調など告げれば、見舞いと称してはいよってくるのは目に見えているではないか。
その危険を冒してまで、何故はあの女召喚師を必要としているのだ。
たしかにとは仲が良いと聞くが、あの男ほどには危険ではないかもしれんが、それでも逢わせて良いとは思えん。
だがが必要としているのだからここは辛苦を耐えてでも呼びに行くべきなのだろうか。
行くべきなのだろうな。
仕方あるまい。
――この間約0.78秒。
つっこむべきトコロは多々あるが、とりあえずその思考能力の速さにまず乾杯。
それからとりあえずイオスをその場に残しておいて、すぐさま身を翻したその行動力にも乾杯。
なんだかんだ云って、娘(違)には甘い。甘すぎるほど甘いルヴァイド。
イオス以外の部下は知らない、これが黒の旅団の未来の総指揮官のもうひとつの姿だった。
ちなみには、かわいがってもらっている自覚はあるらしいが、ルヴァイドが自分にいかに甘いかということまでは自覚していないらしい。
――親の心、子知らず。(違)
さて、歩くこと数分。
黒の旅団の宿舎から、王城をはさんでちょうど反対側にある、顧問召喚師たちのために用意された建物の前までルヴァイドは辿り着いていた。
苦々しい顔を隠しもせずに、ドアの前で躊躇するコト数十秒。
意を決して、手を伸ばしたとき。
「おや、ルヴァイド……」
ごすッ
最後まで相手の発言を許さず、ルヴァイドは念のために持ってきていた大剣で、後ろから声をかけてきた人物を突き飛ばした。
刃は鞘におさめたままだったのが唯一の良心かもしれない。
「な、何をするんですいきなり」
げしッ
「出逢うなり一撃を、いや一撃どころでなく」
ごがすッ
「ルヴァイ……」
ごすどがめぎどしゃッ
「・・・・・・」
「・・・ふう」
完全に沈黙した相手を見て、ひと運動したあとの汗をぬぐう。
「……いや、いかんな」
それから自戒。
普段のときならまだしも、今回はこの男にご執心の女召喚師に用があったのだ。
もし、今のこの情景を彼女が見たら、素直にこちらの要請に応えてくれるかどうか怪しかった。
ルヴァイドはしばし迷うと――
ぽん。
ずるずるずるずる・・・・ざくざくざくざくざく・・・・・ざっざっざっ・・・・ぱんぱん
手についた土を払い、ルヴァイドは今度こそ安堵の息をついた。何かを達成した男の顔だ。
「これで証拠は隠滅出来たか……」
何をしたルヴァイド。(答えの判りきっている問い)
過ぎ去ったコトは頭の片隅においやって、ルヴァイドは裏庭から再び、正面玄関にまわる。
それから改めて扉の呼び鈴を鳴らし、出てきたのは。
「キュラー・・・貴様何をしている」
「朝食の準備に決まっているでしょう」
頭に三角巾、身体には白い割烹着。
ことばを裏付けるように、右手にはおたま、左手にはなべのフタ。
しかも妙に似合っている。
・・・こいつはほんとうにデグレアの顧問召喚師の一員か。
父親莫迦の貴方に云われたくはございませんなぁ。
不毛な争いに突入しかけるが、そんな場合ではないと我に返った。
決着などあとでいくらでもつけられる。それよりも今は、の望みを果たすほうが先決だ。
「がビーニャを呼んでいる。借りて行っても構わんか?」
「おや、がですか。別に構いませんぞ…… ビーニャ!」
意外にあっさりキュラーはうなずき、屋敷の奥に向けて声をあげる。
すぐに、のものと似た軽い足音が響き、目的の女召喚師が姿を見せた。
ただしいささか不機嫌な顔で。
「なぁにキュラーちゃん、朝から……アタシが低血圧なの知ってるんでしょォ? 魔獣に噛ませるわよ?」
「文句ならそこに立っているルヴァイドにお云いなさい、ビーニャ。なんでもが用があるそうですよ」
「え!? ちゃんが!? ヤだ、それを早く云いなさいよッ!」
とたんにご機嫌な顔になるビーニャ。
それを見て、少々早まったかと不安になるルヴァイドだったが、とりあえずざっと事情を説明し、彼女を連れて行くことに。
そうして宿舎へ戻ろうと背を向けた刹那、キュラーのつぶやきが届く。
「そういえばレイム様もお帰りが遅いですなぁ……朝食までには戻ると仰っておられたのに……」
朝の散歩もけっこうですが、食事の時間は守っていただかないと(ぶつぶつ)
当然ルヴァイドはそれを無視した。
「ちゃーん? どうしちゃったの〜?」
ようやくビーニャをの前につれてきたルヴァイドを、イオスが疲れた顔で出迎えた。
とりあえず会話には応じるに、何度か扉を開けるように頼んだらしいが、結果は全滅だったらしい。
それを笑い飛ばしたビーニャが、今、に声をかけている。
「ビーニャ? 来てくれたの?」
「うん、ちゃんが呼んでるって聞いたから、飛んできちゃった。 いったいどーしたの?」
さっきキュラーに不機嫌顔で魔獣けしかけようとしたのは誰だ。
ルヴァイドの心のツッコミなど聞こえるはずもなく、とビーニャの会話は続く。
「えっと・・・とりあえず、入ってくれる・・・?」
「ルヴァイドちゃんたちはいいワケ?」
「う、うん」
……おまえにとって俺たちはその程度の存在だったのか……
ルヴァイド様、気をしっかり持ってください。
何やらショックを受けている黒の旅団のふたりを残して、ビーニャはするりとの寝ている部屋に身体をすべりこませた。
いったい何があったのやらと少々楽しみにしていた部分もなくもなかったが、予想に反して普通の部屋。
部屋の主の性格を反映してか、それとも客用の寝室だからなのか、シンプルにベッドが一台と、その脇に置かれた本棚。
アクセントとしておいてある鉢植えは、おそらくが持ち込んだものなのだろう。
で、そのは。ベッドの上で毛布に包まって、泣きそうな顔でビーニャを見ていたりした。
いつもにこにこ笑っているがそんな表情をしているというだけで、なんとなくこちらまで気分が下降気味になってしまう。
「・・・どしたの?」
「……あの……」
ぼそぼそ。
「んもう、聞こえないよォ?」
抗議の意味を込めて身を乗り出せば、の手がビーニャの腕をつかむ。
そのまま彼女の方に引き寄せられて、これは内緒話の体勢。
耳に、かすかなの吐息を感じながら相手のことばを待った。
「・・・・・・あのね・・・・・・この世界にも、その、えと、 ・・・・・・生理って・・・・・・ある?」
あたし、向こうの世界でそういうの勉強したんだけど、自分がなるのって初めてだから、どうしていいのか判らなくて、でもこんなのルヴァイド様に相談していいのかどうか・・・
バターン!!
でっかい音をたてて、のいる部屋の扉が開いた。
「おい! どうなったんだ!」
「はどうした!?」
蚊帳の外に置かれていたルヴァイドとイオスは当然、出てきたビーニャに問いかけたわけだが。
「誓約においてアタシが命じる! この部屋に人っ子ひとり通しちゃダメよ!!」
答えは返らず、あまつさえビーニャはいきなり召喚獣を喚びだして、の部屋の真ん前にすえる始末。
突然の行動に、さすがのふたりもついていけずに呆然としていると。
いつになく真剣な顔で、ビーニャが彼らを振り返る。
「アンタら、今入っていったら間違いなくちゃんに一生恨まれるわヨ」
別にそれは自業自得になるし、やるならやるでアタシには全然とばっちりこないから、やりたけりゃやれってカンジだけどォ。
「「・・・な・・・」」
有無を云わせぬ、けれど嘘はついていないその口調に、改めて絶句するルヴァイドとイオスを尻目に。ビーニャはどこへ行こうと云うのか部屋から走り出していた。
…………やはりおまえにとって俺たちは……
強く生きてくださいルヴァイド様・・・
結局。
事情が判明したのは、ビーニャが必要な諸々のモノをに渡して、いろいろと後始末をして。
ようやく落ち着いたその日の午後のコトになる。
「……そ、そうだったのか」
イオスと買い物の約束があったのだが、さすがにこの時間からでは難しいし、も初めてのコトで体力がおっつかないということで。
お茶のセットを客室に持ち込んで、ようやくくつろぎつつ。
ちなみにビーニャは珍しく他人の世話を焼いて疲れたのか、が元気になったら一日中一緒に遊ぼうと約束して屋敷に帰っている。
よって、現在部屋にいるのはとルヴァイドとイオスのみ。
そのなかで説明された事実に、ルヴァイドとイオスはなんとも云えない顔になっていた。
「まぁ・・・たしかにこういうことは同性でないと、か・・・」
真っ赤になって、それでも心配をかけたからと恥ずかしいのを我慢して説明したに、なんと云っていいのやら判らずに、当たり障りのないことをつぶやくイオス。
「心配かけてごめんなさい・・・」
しゅーん、とうなだれるの頭を、ルヴァイドはそっとなでてやる。
「気にすることはない。おまえも大人になる準備が出来たということだろう?」
赤飯の準備でもしておこう。
しないでいいです。
っていうか赤飯なんてリィンバウムにあるんですか。
それぞれのツッコミが入るものの、ようやく落ち着いた雰囲気を取り戻した部屋のなかに、コンコン、と軽いノックの音。
「さん、いらっしゃいますか?」
「あ、レイムさんだ」
あまりの復活の早さにルヴァイドが舌打ちしているが、はそれには気づかず、イオスに扉を開けるように頼んで。
半分以上いやいやながらイオスが開いた扉の先には、予想通りの声の主。
デグレアの顧問召喚師兼吟遊詩人のレイムが花束を手に立っていた。
「・・・レイムさん? それは?」
花束なぞ持ってきてもらう覚えのないはきょとんとしているが、レイムがそれに気がついた様子はない。
異常に晴れやかな笑顔で、手前にいるルヴァイドとイオスをきれいに無視して、すたすたとのベッドの前まで歩いてきた。
そしてにこやかにに花束を差し出す。
頂くような覚えはないが、その厚意を無下にするのもなんだかな、とそれを受け取る。
そのの手を両手でふわりと包み込んで、レイムは優しい笑みをつくった。
「さん。結婚しましょう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ガッシャーン! ガタタタタッ!!
イオスの手にしていたカップが床に落ちて割れた音と、ルヴァイドとイオスが椅子を蹴倒して立ち上がった音の大合唱。
「・・・え?」
そしてレイムのことばをのたまわれた当のは、ぽかんとして顧問召喚師を見つめ返していた。
畳みかけるように、レイムの口が開かれる。
「ビーニャからお話は伺いました」
「は、はぁ」
口をぱくぱくさせているルヴァイドとイオスなど気にももとめていないレイムと、唐突な発言に半ば呆然としている。
「とうとうさんも女性になられたということなのですね・・・」
「・・・はあ・・・」
「大変よろこばしいことです」
「あの……えぇと、ありがとう、ございます・・・?」
本音はとっても恥ずかしいのだが、なんだかレイムが心底喜んでいるのが判ってしまってぼそぼそと曖昧にしか返答できないのである。
「ですから、結婚しましょう」
「なんでそーなるんですか・・・?」
脈絡のない会話の飛びぶりに、それでも説明を求めると。
「さんの身体はすでに大人としての階段を歩み始めました……
よって、これからふたりで愛のけげごふッ」
背後からの容赦のない一撃が二発。
体力のない召喚師は耐久力もないという図式を立派に証明して、レイムは撃沈された。
「・・・・・・」
呆然としたままが目を上げた先には、荒い息をついて手を殴ったままの体勢で固まっているルヴァイドとイオスの姿。
全身全霊で殴ったのだろう、ふたりとも手の甲が赤くなってしまっていた。
しかもレイムの後頭部にはでっかいたんこぶが二つ出来て、ブスブスと煙を吹いてる始末。
完全にレイムが気を失っているコトを確かめたルヴァイドが、手を軽く振って立ち上がった。
「イオス、すまんが隣の部屋からゴミ袋を持ってきてくれ」
「判りました、ルヴァイド様」
「・・・・・え?」
「、生ゴミの日は明日だったな?」
「え? えぇと・・・はい」
食堂の横のカレンダーの○印を思い出し、今日の日付を照らし合わせて、はこくりとうなずく。
ぽかんとして見ているの目の前で、イオスが持ってきたゴミ袋をてきぱきと繋ぎ合わせ、人がひとり入るほどのでっかい袋をつくりあげたルヴァイド。
それを、足元で横たわっている顧問召喚師に頭からかぶせた。
すっぽり頭から足までゴミ袋に覆われたレイムは、何やらいも虫のようだった。
とどめとばかりにロープでぐるぐる巻きにしてあるからなおさらだ。
っていうかロープなんざドコから出した。
すちゃりとソレを肩にかつぎあげたルヴァイド。
てっきりそのまま外に持って行くのかと思いきや、イオスが傍の窓を全開にした。
それなりの面積を誇るその窓は、完全に開けてしまえばなど立ったまま潜り抜けられるくらいだ。
「ルヴァイド様、どうぞ」
窓の横に身を寄せて、イオスが云った。
「うむ」
いも虫をかつぎあげたままのルヴァイドがうなずいた。
「・・・・・・」
止めるべきかどうしようか迷って、は結局事態を静観することにした。
――本日未明、デグレアの上空を猛スピードで飛行する謎の物体の目撃情報が、多数の国民から寄せられました。我々デグレア放送局『でぐれあんてぃーぶい』は総力をあげてこの物体の調査にかかる次第であり――
「ビーニャ。レイム様はどうしたのだ?」
「ちゃんトコに行ってくるって、お昼に出て行かれたきりよ。キャハハハッ」
何が楽しいのか、銘菓出愚餡煎餅を食べながら笑っているビーニャの見ているテレビ(はい?)では、そんなニュースが流れていた。
聞くともなしにそれを聞いて、ガレアノは怪訝な顔で外を見る。
「昼……って、もう今は夜ではないか」
まさか窓の外に輝く無数の星のひとつが自分の主などとは、たとえ大悪魔クラスの彼と云えども予想も出来ないことだったらしい。
同じ時刻、たちは晩御飯の時間を迎えていた。
「、食事が出来たそうだが食べられるか?」
「イオス・・・ほんとにルヴァイド様お赤飯作ったの・・・?」
「いや、必死で止めた。安心してくれ」
「(必死で止めなきゃいけないくらいだったのか・・・)ありがと・・・・・・」
リィンバウムに赤飯があるなら、五目御飯も食べたいねというお話。
・・・違うだろ。