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・犬と猫・



 天気の良い昼休みの、屋上は気持ちがいい。
 時折風がそよいでくれると、爽やかな気持ちになる。
 ましてや昼食も済んでおなかもくちた状態になれば、そこは至福の空間だ。

「……犬と猫だな」
「まったくそのとおりね」


 監督と話し込んでいたのか、渋沢が屋上にやってきたのは、昼休みが3分の1ほど過ぎたころだった。
 扉を開けた瞬間その光景を目にして、呆れたような和んだような、そんな苦笑を浮かべている。
 まず、フェンスによりかかってぺたりと床に腰を落とし、ジュースを飲んでいる
 それから、そのにすりよるようにして寝ている、サッカー部2年生レギュラー。
 藤代誠二と、笠井竹巳の二人組。
 少し離れた場所には、すでに中身のないパンの袋やら弁当箱やら。

 しばし迷った結果、渋沢はの斜め前に座った。
「藤代だけならまだしも、笠井まで寝ているのはめずらしいな」
「うん、なんか宿題が大変だったらしいわよ?」
 ――主にわんこが。
 そのことばだけで、渋沢にも大体の事情は飲み込めた。
 大方、宿題の終わらない藤代が笠井に泣きついたのだろう。
 そしてふたりがかりで終わらせて――というところか。
「三日分溜めてたわんこもわんこだけど、それをちゃんと手伝って一緒に沈没してるにゃんこもにゃんこよねぇ」
 ため息まじりには云う。
 手持ち無沙汰なのか、ジュースを持っていないほうの手で、寝ている猫の髪をなでながら。
「・・・三日分・・・」
 あきれ返った渋沢に届くのは、やっぱり呆れた調子のの声。
「ま、終わったは終わったらしいけど」
 やっぱり無理がたたって、お昼ご飯が済んだと同時に気が抜けて、ふたりともダウンしたわけ。
 まったく、困った犬猫だわ。
 そんなことを云いながらも、髪を撫でるの手は優しい。
 本当に猫を撫でているようだ、と、渋沢は思う。
「さしずめ、飼い主はか」
「ほほほ、懐かれてますから」
 手の甲を口に当てて、はお上品に笑ってみせる。
 ふたりを起こしてはしのびないという気持ちは同じで、交わされる会話も自然と小声。
 そして。
 あれ? と首を傾げたのはだった。
「三上は?」
「5限目の教科書を、寮に忘れてきたらしい。とってくると云ってたよ」
「……みぃちゃんも妙なトコロ抜けてるわよねー……」
 まあ、別に自分たちがデキる、とかいうわけではないのだけれども。

「……あれ? キャプテン?」

 視線を交わして、苦笑しあっていると渋沢の下から、藤代の声がした。
 の膝に乗せていた頭を心持ち浮かして、少し寝ぼけた顔で。
「え? キャプテン?」
 それに触発されたのか、笠井もうっすらと目を開ける。
 ――が。
 ふたりが意識を覚醒させる前に、が行動に出た。
 片手に持っていたジュースのパックを渋沢に渡し、自由になった両手でもって、犬猫の頭をぽんぽんとなでる。
「はーいはいはい。いいからおやすみ、わんことにゃんこ」
 昼休みが終わるころには、叩き起こしてあげるからねー。
 よほど気持ちいいのか、藤代は「はーい」と一言つぶやいて。そのまま頭を落とし、目を閉じる。
 笠井は、
「ありがとうございます」
 と、律儀に礼を云って――やっぱり目を閉じた。

「・・・犬と猫だな。大型の」

 屋上に来たときの台詞をもう一度つぶやけば、も楽しそうに頷いて。
「一匹ほしい?」
「いや、遠慮する」
 犬猫どもと戯れるのは、部活のときだけで充分だよ。
 と、犬猫のみならず、他の動物やあまつさえまむしやら束ねているキャプテンは、そう云って断った。
 笑みをうかべた、そのままで。



 ――穏やかな昼下がり。
 犬と猫と、その彼らの大将と。それから彼らの飼い主を叩き起こしたのは、彼らのうちの誰でもなくて。
 最後に屋上にやってきた、三上だったという話である。


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ホイッスル! ネタ、『38』に続いて再び。
たぶん学校の設定無視してると思いますが、まあ、書いちゃったものですし。
このひとら、やっぱ好きだなあとか。