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・髪の毛切ったよ・



「……勿体無い……」
「勿体無いも何もあるか。重いんだぞ」
 第一、動きにくい。
「え、でも勿体無いよ。こんな綺麗なのに……」


 そろそろ腰までも届こうかという、銀の髪を手にとって。
 利き手には散髪用のハサミを持って。
 は、くるりと振り返る。
「ね、レノさんもそう思いますよね?」
「別に? どうせまた伸びるんだしいいんじゃないか、と」
 細身の身体に、赤い髪。サングラス。
 黒い背広を来たタークスの青年は、そう、肩をすくめて答えた。
 それに対するの反応はというと、
「でもなーでもなー。綺麗なのになー。銀色でさらさらで……」
 いっそ、わたしと交換してくれればいいのになぁ。
「出来るものならしてやるよ」
 だから、とにかく切ってくれ。
「……セフィロスのいけず」
「別に構わん」
 けんもほろろなその返答に、はあ、と、はでっかいため息。
 衣服に髪が散らばらないように、一応ケープかけて。
 それから、必要ないんじゃなかろうかってくらい真っ直ぐな髪に、櫛を通していく。

 さらさらと、銀の糸がこぼれる。

「どこまで切るの?」
「好きにしてくれ」

「……知らないぞ、と」

 しゃきしゃき、ハサミが入れられる。
 ぱらぱら、銀の糸が散る。

「はい、出来上がり」
「……おい。どこが出来上がりだ?」

 差し出された鏡を見て、セフィロスは胡乱気な顔になった。
 それもそのとおりで、腰まであった髪が、やっぱり腰まであったからだ。
「出来上がり。ちゃんと髪は切ったよ。ほら」
 床に散らばった銀の糸。
 数ミリ、数センチ。
 壁に寄りかかっていたレノが、こらえきれなくなったらしく噴き出した。
「もしかして、。それは、そろえただけって云わないか? と」
「……
「好きにしろって云ったでしょー」
 蒼翠の猫目が、軽くを睨むけど。
 燈金色の眼をした少女は、軽やかに笑ってハサミをしまう。
 ――これ以上切る気はないんだぞ、と、確固とした意思表示。
「だいたい、そんなイヤなら自分で切ればいいじゃない。わたし、絶ー対バッサリやりたくないもん」
「……やったら、おまえは怒るくせに」
「当たり前です」
「英雄セフィロスも形無しだな」
 クックック、と、レノが笑い混じりにそう云った。
 が、そんな風にしていてもさすがはタークス。
 投げつけられたクッションを、紙一重で避けてみせ、

「はいはい、お邪魔虫は退散しますよ、と」

 最後まで、そんなからかうようなコト云って姿を消した。
 残ったのは、彼がここに来たときに持っていた、セフィロスへのミッション依頼書と過去の仕事の報告書。
 たぶん、今ごろルードあたりとっつかまえて、笑っているに違いない。


 書類を眺めるセフィロスに、背中からよいしょと乗っかって。
「怒った?」
「別に」
 問えば、すぐに答えが返る。
 だけど視線を合わせない英雄の、銀色の髪を引っ張――ろうとしたら。
 先に伸ばされたセフィロスの手が、の髪を引っ張った。
 セフィロスほどではないけれど、それなりに長さのある黒い髪。
「・・・云っておくが」
 やっと。
 セフィロスがを見て……口元だけで、笑ってみせる。
「オレに切るなと云うなら、おまえも切るなよ?」
「耳タコ」
 が。
 セフィロスの髪を絶賛して、切ることに賛成しなくなったころから出来た、条約のようなもの。
 強制力なんてないけれど。

 だけど、律儀にお互いそれを守っている。

 さらさらと、銀の髪が流れて。
 重なるように、黒い髪が揺れた。


■BACK■



なんだろうコレ。髪の毛切ったと見せかけて、実は詐欺(詐欺云うな)
書いた本人、びみょーに甘いかなーと思ってるんですがどんなでしょう。
というより、戦いの最中さぞや邪魔だったんじゃないでしょうか、
セフィロスのあの長髪。風が吹いたら、視界さえぎられたりとか(笑)