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・もしもの話。・ |
久々に、好調だった本日の部活。 選手達の仕上がりに監督もご満悦で、ちょっぴり早く終了しました。 そんな充実感の漂う部室、居残りは部長の渋沢含めたくだんの5人。 さて、彼らはどんな会話をしているのやら。 「ちゃんせんぱーい。これ見ました?」 「あ?」 「色気のねえ返答だな、おまえ」 「男所帯で色気使ってどうするっつのよ」 えーと、何々? 藤代の手にした校内新聞を受け取ったは、がさごそとそれを開く。 長机に向かって日誌を書いている渋沢の邪魔にならないように、心持ちすみっこに寄って。 「――“生徒100人に訊きました。あの人この人の第一印象は? 今回はサッカー部特集です!”……」 キャプテン、渋沢克朗くん ・落ち着いている ・大人びている ・頼りがいがありそう ・和風が似合う ・守護神 「へえ、なんか見たまんまって感じね」 「そうか?」 ・じじむさい 「……三上。おまえだろう、それは」 「チッ、ばれたか」 「あはははははーっ! 三上先輩うまい!」 「誠二……夜道のキャプテンに気をつけろよ」 「ははは……は……」 ・若年寄 「さっきのが三上先輩なら、これは先輩ですね?」 「…………」 「泣きそうな顔で見ないでよ。こんなの、ただの洒落じゃない」 「…………」 「あーもうごめんってば! お詫びにこないだ断った茶席、ちゃんと付き合ったげるから!」 「そうか! ありがとう!」 「うわ、キャプテン立ち直り早!」 三上亮くん ・司令塔 ・女たらし ・すけこまし ・数学の鬼 ・小数点 ・後輩いじめ 「……なんだよこれ」 「当たってるといえば当たってるような……すいません三上先輩無言でイス持ち上げるのやめてください」 「でも、三上先輩って結構真面目なのになぁ」 「そうだな。遊びで付き合ったことはないはずだ。告白されても片端から振ってるし」 「そこらへんが、泣かした女は数知れず、じゃないの?」 ・へたれ 「! てめえだろ、これ!!」 「おほほほほほ、こーこまーでおーいでー♪」 「お、おい、……」 「うわあ。ちゃん先輩、キャプテンを盾にしてる」 「先輩がゴールだったら、まさに守護神だね」 藤代誠二くん ・元気 ・エースストライカー ・人なつこい ・かわいい ・笑顔 ・バカ 「三上先輩でしょこれ! ひどいっす!」 「何云ってんだ、本当のことだろうが」 「俺、バカじゃないですよー!」 「んじゃこれ、解いてみろ」 「……………………」 「……あれ、東大クラスの問題集じゃん。数学の。どこから調達したのよ」 「本屋に参考書を買いに行ったついでにな。面白そうだと云って」 「三上が数学バカってのは、当たってるわけね」 「笠井、止めてやらないと藤代の頭が火を噴くぞ」 「いえ。何度も負けてるのに、三上先輩にくってかかる誠二がバカなんです」 ・にんじん嫌い 「あ、それ、俺です」 「おいこら藤代。おまえ、この間、人参食えるようにするって誓ったよなぁ?」 「え? そうでしたっけ?」 「……。明日の藤代のドリンクは、キャロットジュースにしてやれ」 「了解ー」 「うわーん! 竹巳がよけいなこと書いたからー!」 「男に二言はないだろ、誠二」 「うわああああん!」 ・わんこ 「……」「……」「……」 「あらー? どうしたの? みんなそろってこっち見て」 「おい藤代。おまえ、バカはダメで犬ならいいのかよ」 「……よくない。……よくないっす、けど……」 「けど?」 「俺、ちゃん先輩に手はあげれない……」 「うわあ、藤代ってばいい子ー! よしよし、このお菓子食べる?」 「ッス! いっただっきまーっす!!」 「――犬だ」 「犬だな」 「よくしつけてるな、」 笠井竹巳くん ・ピアノが上手 ・藤代くんにひっぱりまわされて大変そう ・笑うときっとかわいい ・猫目がかわいい 「圧倒的に、3年女子からの回答が多いな」 「年上ウケしやすいんだろ、コイツ」 「竹巳のピアノはいいっすよねー。眠れないときには、これ聴くに限る!」 「藤代……おまえ……」 「だって、こないだちゃん先輩が竹巳に玩具のピアノあげたでしょ? ちっちゃいの」 「え? ああ、そういえばあげたわね。なんかの景品だったっけ」 「竹巳嬉しがって、毎晩寝る前に、あれ弾いてるんスよ。両手の人差し指で、こう、ぴんぽろぽん♪」 「せ、誠二! ばらすなよ!!」 「うわっ、あれで弾いてるの!? いいの!? おかしな癖ついちゃったりしないわけ!?」 「それは……だいじょうぶです。指慣らしに簡単のを叩くだけだから」 「……それならいいけど……あ、そうだ。またわたしにも聴かせてね。音楽室貸し切っちゃおう」 「は、はい」 ・にゃんこ 「……」「……」「……」 「まあ、そんなに何度も見つめるなんて、ちゃん照れちゃうっ」 「どうせ答えは判ってるが訊いてやろう。おい笠井、猫でいいのかオマエ」 「……判ってるんなら訊かないでください……」 「手をあげたい気持ちはあるのか?」 「ありません! 先輩に、そんなこと考えたりしませんよ!」 「、どうやってしつけたんだ?」 「いや、真面目に訊かれても困るんだけどね?」 ――以下省略。 サッカー部の面々への、第三者からの第一印象は、5人を笑い他の渦に巻きこんだ。 ひとしきり騒ぎ終わって気づけば、とっぷり日も暮れかけていた。 「――ああ、笑った笑った…… ん?」 うーん、と、は背を伸ばす。 腹をかかえて笑うことが多かったせいでか、ちょっとスッキリ。 が、ふと渋沢たちを見渡して、スッキリ気分も消えてしまった。 「どうしたのよ、難しい顔して」 ことばどおり。 未だに長机に広げた校内新聞を見て、もとい睨んでいる4人は、不気味やら滑稽やら。 「ちゃん先輩がない」 質問に答えようとしたのではなかろうが、藤代がぽつりとつぶやいた。 「……そりゃないでしょうよ」 「でも、監督だってコーチだってあるのに……」 「ちゃん先輩だって、同じサッカー部じゃないスか!」 「いや、てゆーか。わたし、別に表に出てないし?」 こういうのは、名前の知れてる人間をネタにしたほうが盛り上がれるのよ。 その点、サッカー部はいい材料というわけで。 監督コーチ選手ともども、校内校外に名高いからこそ、新聞部も目をつけたのだ。 「第一、二軍三軍だって入ってないでしょ」 とかなんとか続けようとしたところ、ますます眼前の4人の空気が重くなるのを見て、は眉根を寄せたのだった。 三上が、不機嫌そうに新聞を叩く。 「そりゃあ、二軍三軍は下積みって感じだからわかるけどよ。おまえ、校外試合にだって顔だしてるじゃねーか」 「それが仕事だもん。出るわよ、そりゃ」 あっけらかんとしたのことばに、笠井が机に突っ伏した。 その横から、藤代が素晴らしい勢いで立ち上がる。 「ですからー! ちゃん先輩は、格で云ったら一軍も同様! いや、監督コーチ抜いてダントツなんすよ!?」 「……どういう基準でモノ云ってるのカナ、そこのにんじん嫌いな犬は」 「犬じゃないですってばー!」 「まあ、落ち着け、藤代」 ぽんぽん、と、イスを蹴倒して立ち上がった藤代の背を、渋沢が軽くたたいてなだめた。 「キャプテンは悔しくないんですかっ!?」 「いや、悔しいさ。でも、考えてもみろ」 にっこりと。 外行き用でない笑顔を浮かべた渋沢に、含め全員の視線が集中する。 「見方を変えれば、の印象……いいところも悪いところも、知っているのは俺たちだけということになるんだぞ」 「悪いところってなによ! このパーフェクトマネージャーに向かって!」 「自分で云うなよ!」 すかさず渋沢の後頭部を叩いたを、さらに三上がどついて倒す。 支えようとした笠井を巻き込み、机に手をついていた藤代がその勢いでバランスを崩し。 ――結果、部室に爆音が響き渡った。 「おーほしさーま、きーらきらっ♪ ……てか」 ああもう、部室の片付けのせいで、すっかり遅くなっちゃったじゃない。 夜空に輝く星を見上げ、センチメンタルな表情のの胃が、つつましやかな自己主張の音を立てる。 渋沢以下武蔵森レギュラー4人は、賢くも聞かなかった振りをした。 何かとつっかかる三上さえも、生ぬるい表情であさっての空を仰いでいる徹底ぶりだ。 そして、藤代の胃から、その数十倍大きな自己主張が発生した。 「あ〜……食堂のおばちゃん、飯とっといてくれてるかな〜……」 切なげに空を見上げる藤代には、きっとお星様が米粒に見えているに違いない。 手が届くなら、寄せ集めて茶碗にさえ盛りそうだ。 「誠二はいいだろ、部屋にスナック菓子大量に保管してるんだから」 「ああ、じゃあ飯が残ってなかったら、おまえらの部屋行くか」 「ええっ!? 三上先輩、俺のなけなしの食料を奪う気ですか!?」 三上先輩の鬼! 人でなし! ぎゃあぎゃあわめく藤代を、笠井と三上が同時に叩いて黙らせた。 そんな彼らを、は複雑な笑み、渋沢は苦笑いを浮かべて眺める。 ふ、と、が小さく息をついた。 ため息のようなそれは、間違いなく、笑みを含んでいて。 小さなはずのそれは、何故か藤代たちの騒動にかき消されることなく、夜気に留まる。 ――しめしあわせたように、全員が、を振り返った。 くすくす、小さな笑い声。 「?」 おかしくてしょうがない、そんな表情で立ち止まったマネージャーの名を、キャプテンが呼ぶ。 そうして。 4人の視線に気づいたは顔をあげ、やっぱり――笑っていた。 「――なんだかなあ」 第一印象が若年寄だろうがへたれだろうが犬だろうが猫だろうが、 「わたし、あんたたち、大好きだわ」 ……………………………… …………………… 「……。おまえ、熱でもあんのか?」 「うわ、失礼な奴」 しばしの硬直のあと、真っ先に復活したのは三上だった。 額に当てられようとした手のひらを避けたは、あいにく夜の闇のせいで、少し赤くなった彼の頬を見逃したようである。 見えていたら、熱があるのはあんただと、切り返したに決まっているから。 「」 「何?」 そんな彼女の肩に手をおいて、渋沢が云う。 「茶席、特上のに招待するからな」 「わぁお、渋沢ってば太っ腹! お茶菓子期待してるからね!」 「ちゃん先輩、お土産よろしくっす!」 「誠二、おまえ、食い意地張りすぎ」 冷静な笠井のツッコミも、藤代には聞こえていないようだった。 「オッケー!」と親指立てたに、覆い被さるように抱きつきに走る。 「あとね、あとね」 「はいはいはい? なんですか、犬?」 「俺も先輩大好きです!」 あと犬じゃないです! 「あっはっはー、やっぱり犬だわあんたは」 全身での愛の告白も、にかかっては大型犬に飛びつかれたと同義らしい。 荷物をかけたままの腕を藤代の背にまわし、ぽんぽんと何度か叩いてやる。 傍で見ていた他3名には、藤代がばたばた尻尾を振っているのが見えたそうだ。後日談だが。 その藤代の横をすり抜けて手をのばしたのは、今まで硬直していたらしい笠井だった。 少し吊り気味の眼が、驚きの余韻が残っているのか、それとも別の感情故か、心なし細められていて。 伸ばした手での制服の袖をつかみ、彼女の注意を自分に向かせる。 「あの……俺も、先輩のこと、先輩と、同じです」 で、そう云われたはというと。 「……猫目が笑うと、やっぱり、こう、ぐっとくるものがあるなあ……」 とかなんとか、わけの判らん感想を述べていたりする。 だけども同時に片手を離し、笠井の頭をなでてやってたりするものだから、猫目の少年はそちらの幸福を優先することにしたようだ。 あえて何も云わず、完璧に目を細めて、なでられるままになっているのだった。 ……そのあと。 しつこく離れようとしない藤代を、三上と渋沢と笠井が3人がかりで引っぺがしたり。 結局寮の門限ギリギリになってしまって、徒歩が徒競走になってしまったり。 そんなこんなとあったけど、それはまた、別のお話ということにして。 女子寮近くまで送っていったその帰り道、ふと渋沢がつぶやいた。 「ところで、もしもの話なんだが」 「ん?」 「の名前があそこにあったら、どんな回答がきていたと思う?」 …… 発案者含め、熟考する四人。 まず、藤代が「はい!」と挙手。 「男前!」 「女に対する単語か、それは」 「三上先輩、意外とフェミニストですね」 続いて、笠井が首を傾げつつ、 「なんというか……頭領とか、そういう感じですか」 「なあ竹巳。それ、さっきの俺のとどう違うんだよっ」 「ガテン系ということか……」 三がついてるからというわけじゃないが三番手、三上。 「影の大番長だな、ありゃ」 「俺、前言撤回します」 「が聞いてたら命はなかったぞ、三上」 そして最後に発案者、渋沢。 「そうだな、俺は……」 「俺は?」 少し照れたように、彼は笑った。 「は、かな。ありがたくもうちで頑張ってくれている、大事な敏腕マネージャー」 想像力がなくて悪い、と笑う渋沢の背を、無言で三上が引っぱたく。 藤代と笠井は、そんな先輩ふたりを眺め、そのあと、顔を見合わせて表情をほころばせた。 「だよな」 「だね」 「云うまでもねえ、だろ」 ふたりの語尾にかぶせて、ヘッドロック実行中の三上が、にやりと口の端を持ち上げる。 渋沢もまた、本気ではなく痛がりながら、やはり笑っていたのだった。 変わらずめぐる毎日の、そんな他愛ないもしもの話。 |
武蔵森四人組と絡むのが好きらしいです。 女子がマネージャー出来るんか、という、原作設定は この場合朗らかにスルーしてやってください。お願い。 |